「新オレンジプラン」の問題点

平成27年1月27日、新しい認知症施策が発表されました。
認知症施策推進総合戦略~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~(新オレンジプラン)です。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000072246.html

この施策では、「当事者本位の支援モデルの構築」が基本的コンセプトとなっています。しかし、策定の最終段階で精神科病院の役割が強調された文言修正が入ったため、このコンセプトがぶちこわしになってしまいました。以下、ご説明しましょう。

<認知症とは>
認知症は
いったん正常に発達した知的機能が持続的に低下し、複数の認知障害があるために日常生活、社会生活に支障をきたすようになった状態
と定義されています。

認知症においては、もの忘れや判断力の低下という認知機能障害と一部の認知症の人に不安、焦燥、抑うつ状態、幻覚や妄想、興奮、徘徊、不潔行為などの行動・心理症状と呼ばれる精神症状が認められることが知られています。
認知症の人は圧倒的に高齢者が多く、認知機能障害に加えて、高齢化による身体機能低下が認められることがあり、さらに一部の認知症の人には精神症状が出現したりするなど様々な状態となり得ます。そして、認知症の人は「日常生活、社会生活に支障を来している」ので、まず必要なのは適切な生活支援です。さまざまな状態像の認知症の人に対して、当事者本位の適切な支援を提供することが大切なのです。

認知症の原因疾患は医学的疾患です。その意味で、医療の関与は欠かすことはできません。しかし、医学的な完全な予防法、医学的な完全な治療法が未だに開発されていない現状では、医療は「認知症の人の生活を支援する場面」での下支えの役割に徹すべきです。
(完全な治療法があれば、正確な診断とそれに基づく治療が中心になることでしょう。また、完全な予防法があれば、それを広めるのが大切になります。残念ながら、現状ではどちらも存在しないのです。)

日本では、こうした認知症の人への適切な支援が提供されているとは言いがたい現状にあります。そのために、認知機能が低下した認知症の人が環境に適応できずに混乱したりして、精神科医療が必要となるケースが多くあります。しかし、国民全体の認知症の人への正しい理解が深まり、適切な支援が提供されるようになれば、こうした「認知症の人への精神科医療の必要性」は減ってきます。いわば「認知症の人への精神科医療の必要性」が少なければ少ないほど、その社会は「認知症高齢者等に優しい社会」と言えるのです。
認知症の人を支援する場面において、精神科医療を前面に出さなくてはいけない社会は、「認知症高齢者等に優しい社会」とは到底言えません。この点で、今回の新オレンジプランが精神科病院の役割を強調しているのは、世界中に日本の恥をさらしたようなものです。

<新オレンジプランの問題点(各論)>

(本文9ページ)
「介護現場の能力を高め、介護で対応できる範囲を広げるためには、精神科や老年科等の専門家による、医療の専門性を活かした介護サービス事業者等への後方支援と司令塔機能が重要であり、その質の向上と効率化を図っていく。」
←医療の「後方支援機能」はきわめて重要です。しかし(特に精神科医療に)「司令塔機能」は持たせてはいけません。

(本文9ページ)
「具体的には、精神科病院等が介護事業所等と連携する、あるいは地域の ネットワークに加わり、介護職員や家族、認知症の専門科ではない一般診療科の医師等からの相談に専門的な助言を行ったり、通院や往診(通院困難な場合)等により適切な診断・治療を行ったりすることが必要である。」
←「精神科病院等」は「病床を持たない精神科医療機関」とすべきです。
病床をもった精神科病院にこうした相談機能を持たせることは、精神科病院に入院患者集客のための効率よい道具を提供してしまうことになるからです。これは、今回の新オレンジプランの中心的コンセプトである「認知症の当事者本位の支援モデル」の構築に反しています。

<最大の問題点~循環型の仕組みの構築>
今回の新オレンジプランの最大の問題点は「循環型の仕組みの構築」(本文9ページ)という考え方にあります。

認知症の人の支援の場面で、もの忘れや判断力の低下などの認知機能障害に基づく問題に対しては、ほとんどの場合、介護保険のサービスを有効に利用することで対応することが可能です。認知症の人の支援の場面で困ってしまうのは、行動・心理症状などの精神症状が出現してしまったときです。

新オレンジプランでは、行動・心理症状などの精神症状が出現したときに、「循環型の仕組みを構築」して対応するとしています。

(本文9ページ)
「当該医療機関・介護施設等での対応が固定化されないように、 退院・退所後もそのときの容態にもっともふさわしい場所で適切なサービスが提供される循環型の仕組みを構築する。その際、入院・外来による認知症 の専門医療も循環型の仕組みの一環であるとの認識の下、その機能分化を図りながら、医療・介護の役割分担と連携を進める。」
「そのときの容態に最もふさわしい場所で適切なサービスが提供される」

これは旧来のサービス提供モデルで利益を得てきたサービス提供業者の既得権を守るために考え出されたモデルです。
当事者の希望、ニーズに合わせて、サービスを工夫し、調整して提供するのではなくて、既存のサービスに当事者を当てはめていくモデルです。

「循環型の仕組み」では、当事者ではない周囲の人が、既存のサービスから「最もふさわしい場所での適切なサービス」を(恣意的に)選択し、そのサービスに当事者を当てはめます。そして、状態が変化したときには、「当事者を循環させる」モデルです。←たらい回しに近いと思います。
この「当事者を循環させる」ことによって、認知症の人には深刻なリロケーション・ダメージを生じます。きわめて問題の多いモデルなのです。

今回の新オレンジプランの中心的コンセプトである、「認知症の当事者本位の支援モデル」の構築のためには、こうした従来型のサービス提供モデルを否定し、認知症の人の思いと希望を最優先して、その実現のために必要なサービスを工夫、調整して組み合わせるという考え方が必要です。
必要なのは「(当事者を循環させる)循環型の仕組み」ではなくて、たとえ状態が変化しても当事者が暮らしたい場所で、必要なサービスを受けて暮らし続けることができる仕組みなのです。

「入院・外来による認知症 の専門医療も循環型の仕組みの一環であるとの認識」
←正しい認識ではありません。循環型の仕組み自体が、今回の新オレンジプランの中心的コンセプトである「当事者本位の支援モデル」に明確に反していることと、「入院・外来による認知症の専門医療」は、必要時に認知症の人の生活を下支えする役割にすぎないからです。

(本文10ページ)
「行動・心理症状(BPSD)に対応するに当たっては、病識を欠くことがあり、症状によっては本人の意思に反したり行動を制限したりする必要がある。精神科病院については、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号)の体系の中で、行動の制限が個人の尊厳を尊重し、人権に配慮して行われるよう、適正な手続き等が定められている。」
←精神保健福祉法に規定されている行動制限の手続きは、一人の精神保健指定医に権限が集中しており、本人の権利を守るための仕組みがありません。精神保健指定医の恣意的な判断による行動制限を防止することができない制度設計になっており、「個人の尊厳を尊重し、人権に配慮した適正手続き」とはいいがたいものです。改善のためには、本人の権利を守る仕組み、例えば、入院患者一人一人に権利擁護者をつけるなどの仕組みが必要です。
行動制限の規定に象徴的にみられるように、精神保健福祉法は入院している人の権利を擁護する法律にはなっていません。
精神保健福祉法を抜本的に改正するか、精神保健福祉法が適用される場所(精神科病床)を必要最小限まで減らす必要があります。

新オレンジプランには、「認知症の人を精神科に入院させることの問題点を全く考えていない記載」が数多く見られます。「認知症の人を精神科に入院させること」は世界の常識から言ってきわめて非常識なことです。「認知症の人を精神科に入院させる」ことを前提とした記載はすべて削除すべきであると思います。

(本文11ページ)
「身体合併症への適切な対応」
「身体合併症への適切な対応を行うためには、身体合併症等への対応を行う 急性期病院等における行動・心理症状(BPSD)への対応力を高めること、及び精神科病院における身体合併症への対応力を高めることがともに重要であり、身体合併症等に適切に対応できる医療の提供の場の在り方について検討を進める。」
←これは次のように書き換えるべきです。
「身体合併症への適切な対応を行うためには、身体合併症等への対応を行う急性期病院等における行動・心理症状(BPSD)への対応力を高めること、及び総合病院精神科の充実が重要であり、身体合併症等に適切に対応できる医療の提供の場の在り方について 検討を進める。」

身体疾患は身体疾患を治療する一般科病棟で治療すべきです。精神科病棟で治療すべきものではありません。

更新:2015/3/4

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