2-5.ハンセン病 強制隔離政策と精神科医療

日本で続いていたハンセン病の人に対する強制隔離政策、精神科医療政策と共通性があります。

どの国でもハンセン病はおそれられていましたが、日本だけ突出して過酷な隔離政策をとりました。(特に新憲法下でひどくなりました。)
明治政府の国家近代化政策にその起源があったのかなと、少し考えています。(江戸時代は、精神障害者に対する排除もひどいものではなかったと聞いています。明治時代になって、精神障害の問題は内務省-警察の管轄になりました。)
「天皇を中心とした、均質な日本民族による中央集権的な国家体制」の実現、列強諸国に食い物にされない国家の実現には役立ちましたが、これが社会の構成員の多様性を排除する考え方につながったのではないかと。

類似点
・社会からの隔離を目指したこと

相違点
・ハンセン病では、対象者数が少なかったため、主に国公立の施設が行った。診断がつくと終生隔離され、子孫をつくらせず、隔離政策に違反すると刑事罰が科せられるような、きわめて過酷な人権制限が行われた。
隔離政策を実行していたのは、国公立の施設が中心であったために、強制隔離政策を終了させるのは法律の廃止によった。
  ←政策の変更自体には、精神科医療に比較して困難は少なかった。
・精神疾患では、対象者数が多かったため、収容自体を民間にやらせた。精神障害者を収容することが民間の事業になってしまったため、その後の政策の変更がきわめて困難になっている。
・精神疾患の場合、隔離政策により、疾病の陰性症状の進行が早まり、施設化が急速に進行した。そのため、社会復帰が困難になってしまっている。対象者数の多さもあり、政策変更後に、より積極的な社会の側の対応が必要になる。

ハンセン病では、国のハンセン病政策の違憲性を指摘し国家賠償法上の違法性及び過失を認めた、熊本地裁の画期的な判決(H13.5.11)があります。
http://www.lawyer-koga.jp/hansen9-hanketu.htm

平成一〇年第祉I六四号、同第一〇〇〇号、同第一二八二号、平成一一年第三八三号「らい予防法」違憲国家賠償請求事件

         判  決  骨  子

第一 本件の主要な争点

 一 厚生大臣のハンセン病政策遂行上の違法及び故意・過失の有無
 二 国会議員の立法行為の国家賠償法上の違法及び故意・過失の有無
 三 損害
 四 除斥期間

第二 当裁判所の判断

一 厚生大臣のハンセン病政策遂行上の違法及び故意・過失の有無について(争点一)
 患者の隔離は、患者に対し、継続的で極めて重大な人権の制限を強いるものであるから、少なくとも、ハンセン病予防という公衆衛生上の見地からの必要性(以下「隔離の必要性」という。)を認め得る限度で許されるべきものである。
 らい予防法(以下「新法」という。)が制定された昭和二八年前後の医学的知見等を総合すると、遅くとも昭和三五年以降においては、もはやハンセン病は、隔離政策を用いなければならないほどの特別の疾患ではなくなっており、すべての入所者及びハンセン病患者について、隔離の必要性が失われた。
 したがって、厚生省としては、同年の時点において、隔離政策の抜本的な変換等をする必要があったが、新法廃止まで、これを怠ったのであり、
この点につき、厚生大臣の職務行為に国家賠償法上の違法性及び過失があると認めるのが相当である。

二 国会議員の立法行為の国家賠償法上の違法及び故意・過失の有無について(争点二)
1 新法は、六条、一五条及び二八条が一体となって、伝染させるおそれがある患者の隔離を規定しているが、これらの規定(以下「新法の隔離規定」という。)
は、遅くとも昭和三五年には、その合理性を支える根拠を全く欠く状況に至っており、その違憲性が明白となっていた。
2 国会議員の立法行為(立法不作為を含む。)が国家賠償法上違法となるのは、容易に想定し難いような極めて特殊で例外的な場合に限られるが、遅くとも昭和四〇年以降に新法の隔離規定を改廃しなかった国会議員の立法上の不作為につき、国家賠償法上の違法性及び過失を認めるのが相当である。

三 損害について(争点三)
 原告らが被告の違法行為によって受けた被害のうち、共通性を見いだすことができるもののみを包括して賠償の対象とすることとし、慰謝料額を、初回入所時期と入所期間に応じて、一四〇〇万円、一二〇〇万円、一〇〇〇万円及び八〇〇万円の四段階とする。なお,認容額の総額は,一八億二三八〇万円(うち慰謝料が一六億五八〇〇万円,弁護士費用が一億六五八〇万円)である。

四 除斥期間について(争点四)
 本件において、除斥期間の起算点となる「不法行為ノ時」は、違法行為の終了した新法廃止時と解するのが相当であり、除斥期間の規定の適用はない。
(永松健幹裁判長代読)

ハンセン病に関しては、日弁連の詳しい資料があります。
http://www.jlf.or.jp/work/hansen_report.shtml

ハンセン病の強制隔離政策には、医学・医療界の「専門家」達が決定的な役割を果たしました。

この中の再発防止の提言です。「感染症」を「精神障害」と読み替えることが可能です。

1.感染症患者の人権を保障し感染の拡大を防ぐ唯一の方法は患者に最良の治療を行うことであって
隔離や排除ではないとの認識を普及すること。
急性感染症については、やむをえず強制隔離が必要な場合もあるが、それに伴う患者の人権の制
限は必要最小限とし、患者に対しては最善の医療が保障されなければならない。慢性感染症につい
ては、急性感染症のように感染力が強くないこと、また患者の人権に対する重大な侵害なしには隔
離できないため、原則として患者の隔離を行ってはならない。

2.遺伝病は誰でも罹る可能性のある疾患であって、特定の家系に起きる特別な疾患だといった誤っ
た認識を払拭させるための啓発活動を行うこと。

3.医学・医療界は、患者・家族らの立場に立った医学・医療の確立に努め、それを担保する制度・
システムの整備・充実を図ること。
日本の誤ったハンセン病絶対隔離政策が示しているのは、これを推進し、あるいは加担した医学・
医療界には患者・家族らの視点が決定的に欠落していたことである。

4.患者・家族らが、国や専門家の権威に盲信することなく、いずれの学説が正しいかを自主的に判
断できるように、インフォームド・コンセントやセカンド・オピニオン等をはじめとする「患者の
権利」を確立するための法整備等を図ること。

5.すべての病人や障害者に優しい社会を作るように国、社会は不断に努めること。

ハンセン病の強制隔離政策を主導した光田健輔医師は、ハンセン病に関する世界の医学的常識に反する情報を流布し、ハンセン病に対する社会的差別を助長しました。その上で、「偏見がつよい社会で生活するのは難しいから」と強制隔離政策を正当化しました。
日本の精神科医療の世界では、長期隔離収容されたために社会生活能力を奪われ、退院できなくなった精神障害者が「自分だけは退院させないでくれ」と希望してくることを理由として、これからも隔離収容していくことを正当化したりしています。

どちらも、とんでもないことです。

参考資料
日弁連 ハンセン病強制隔離政策に果たした医学・医療界の責任と解明
ハンセン病強制隔離政策に果たした医学・医療界の責任と解明(日弁連)

日弁連 ハンセン病 精神疾患 比較
ハンセン病 精神疾患 比較(日弁連)

更新:2013/2/5

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