指定医不正取得問題の根幹

今回の指定医不正取得問題の根幹には以下の二つの問題があります。これらは精神障害者の人権制限に関わることなので、きわめて重大な問題です。

1.精神保健福祉法における精神障害者の人権制限規定が、精神保健指定医への過剰な信頼に基づいて制度設計されていること
 →精神保健指定医の恣意的な判断による人権制限を防ぐことができない制度になっていること
 →精神科病棟が強大な権力を持った精神保健指定医を頂点としたピラミッド型の権力構造になっていること
2.精神保健指定医の資格認定が精神科医の性善説に基づいており、悪用して資格取得することが可能な制度設計になっていること
 ←そもそも誰が書いたかわからないケースレポートを合否判定の基礎にしているのが大きな問題

今回は、2.の問題点を悪用した不正取得であったということです。これは氷山の一角にすぎないとの指摘もあり、日本の精神科医療体制への信頼が根本から揺らいでいます。
マスコミでは不正取得した指定医による精神障害者の人権制限の問題が取り上げられていますが、もっと根幹の制度設計上の瑕疵を指摘すべきであると思います。この制度をこのまま放置すれば、同じようなことが起こることが防げないのです。

この問題をきっかけに精神保健福祉法の根本的な問題を指摘し、抜本的改正を行うことが必要であると思います。

法律の名前は変わりましたが、精神保健福祉法の立法趣旨は明治33年の精神病者監護法の昔と変わらず、「社会にとって困った存在となりうる精神障害者に医療及び保護を与えるという名目で、社会から隔離・収容すること」です。
そして、精神保健福祉法では、医療者特に精神保健指定医に強大な権限が与えられています。
精神保健福祉法が規定する、精神科病院における精神保健指定医を頂点としたピラミッド型の権力構造が様々な問題を引き起こしています。

たとえば、精神科病院や介護施設等で時々みられる、職員による利用者の虐待事件に関してです。

こうした施設で虐待事件が起きると、多くの場合、「問題がある職員が虐待をした」という形で、個人の責任を追及してしまいがちです。
もちろん、そういった要因があることは否定できないと思いますが、私はこうした虐待事件でがその組織自体の問題点がより大きな役割を果たしている場合が多いと考えています。

特にピラミッド型の権力的な構造を持った組織では、人権侵害が起こりやすい傾向があります。
多くの精神科病棟は閉鎖病棟であり、密室です。その中は、医師を頂点としたピラミッド型の権力構造になっています。
精神科病棟は、そこに入院している人にとってだけではなく、働いているスタッフにも恐ろしいところです。精神保健福祉法に定められた手続きを踏めば、合法的に入院患者の人権制限が可能になっています。医師だけではなく、働いているスタッフすべてに、入院している患者の人権を制限することの問題意識が希薄です。法に定められた手続きを踏めば、許されると考えています。数々の不祥事で、行動制限の要件は厳しくなりましたが、現場のスタッフに「行動制限を減らそう」という意識はなかなか生まれてきません。「必要があって行動制限をしている。要件を満たして行動制限をできるようにしよう。」と考えてしまいます。

精神科病院で働いているスタッフの方のブログです。
医療・福祉の日記もどき
立命館大学 生存学研究センターの精神科病院での不祥事に関するページです。
精神病院不祥事件

管理者も同様なので、ひどい場合にはスタンフォード監獄実験のような状態になってしまうことがあります。

スタンフォード監獄実験で明らかになったのは、権力を持つ人間が持たない人間と狭い空間で一緒にいると次第にびっくりするような虐待をしてしまう可能性があること、そして「普通の人」が組織の中で役割を与えられただけでそうなってしまうということでした。特定の個人に責任があるというよりも、システムに問題があるために虐待や人権侵害が生じてしまうのです。

スタンフォード監獄実験の責任者だった人のTED講演「フィリップ・ジンバルド:普通の人がどうやって怪物や英雄に変貌するか」を見ました。

なかなか素晴らしいのでご覧ください。

「悪」は「力の間違った行使」です。スタンフォード監獄実験でわかったことは、「環境によって、所属する組織のシステムによって、普通の人が極悪なことを平気でしてしまう」ということでした。イランのアルグレイブ刑務所での信じられないような虐待も「普通の兵士」がしたことでした。

権力を与える場合には、それが濫用されないように細心の注意を払わなければなりません。

精神科の閉鎖病棟においては、医療者に強大な権限が与えられています。
現状の法制度に基づくあの環境では、その濫用を防ぐことができません。
「普通の人、普通の医療者が虐待をしてしまう」のを防げないのです。
制度を変えてあの環境を変えるか、必要ないのであれば閉鎖すべきだと考えています。

東京新聞に指定医不正取得問題に関する社説が掲載されました(平成27年4月24日付)。
精神保健指定医 「性善説」では立ち行かぬ

更新:2015/4/20

Blogカレンダー

2017年5月
« 8月  
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031 

Blogへの投稿

このサイトの検索

ページ上部へ戻る

Copyright @ Hideki Ueno. All Rights Reserved.