病床転換型居住系施設 民間精神科病院の事情

世界の精神科病床170万床のうち、約2割にあたる35万床が日本にあります。そして、その9割は民間精神科病院の病床です。日本だけ入院が必要な重度の精神障害者が多いということはありえないので、現状では多くの入院が必要でない精神障害者が入院生活を送っていることになります。

日本の精神科医療においては、国や地方公共団体が「財政難」を理由として精神科病院の建設をしてきませんでした。そのため明治から昭和の頃には、自宅に座敷牢をつくり精神障害者を収容するという「私宅監置」の制度が認められてきました。私宅監置の制度を管理していたのは、内務省-警察です。多くの精神障害者が不十分な医療と劣悪な生活環境の中に放置されていました。

精神医学入門、西丸四方他著、南山堂より

精神医学入門、西丸四方他著、南山堂より

その悲惨な状況を、呉秀三先生(東京帝国大学医科大学 精神病学講座教授)は、『精神病者私宅監置ノ実況及ビ其統計的観察』(1918年)の中で、「わが国十何万の精神病者はこの病を受けたるの不幸のほかに、この国に生まれたるの不幸を重ぬるものというべし」と述べています。

その後、昭和29年7月の全国精神障害者実態調査で、精神障害者の全国推定数130万人、うち要入院35万人であることが判明しました。当時の精神科病床は約3万床です。多くの精神障害者が私宅監置されていることが明らかになったのです。精神科病床の整備が急務とされましたが、このときも国や地方公共団体は「財政難」を理由として、国公立の精神科病床をつくることをせず、低利の融資と精神科特例という運営上のメリットを与えることで民間事業者に精神科病院をつくらせるという政策をとりました。
その結果、民間の精神科病床は急速に増加し、いわゆる精神科病院ブームとなりました。

そして多くの先進国で精神科病床削減の政策がとられはじめていた昭和39年、ライシャワー駐日米大使刺傷事件が起こりました。当時のマスコミは「精神障害者を野放しにしている」と行政施策を強く批判、その後日本は精神科入院医療を中心とした施策に大きく舵を切ったのです。その結果、民間精神科病床が急増することになりました。

現在、「障害のある人も地域で生活する」という考え方が常識となろうとしています。しかし、日本では「精神障害者を隔離収容する」というのが民間事業者の仕事になってしまっているため、精神科病床の削減が簡単にはできません。民間精神科病院の収入の多くは入院関連なので、
 病床削減 →入院患者数の減少 →収入の減少
なので、単純に病床削減すると経営が持たないのです。

そこで出てきたのが、「病床を削減せずに活かして利用しつづける」という構想です。
2006年の病院の敷地内に「退院支援施設」をつくろうとする動き、2012年5月の「介護精神型老人保健施設」の提唱、そして、今回の「病床転換型居住系施設」の提唱です。
このうち、介護精神型老人保健施設や今回の病床転換型居住系施設は、病棟をそのまま施設などに転換するものです。
単純にイメージしてみても、「病院の1階は外来、2階は病棟ですが、3階から5階までは明日から施設になります」では、地域生活に移行したとはとても言えないと思います。

精神科病院の病床削減、私も当院で本格的に検討しましたが、現在の入院医療中心の経営モデルを変換するのはきわめて難しいことがわかりました。
・トップの強力なリーダーシップ
・職員の意識改革
・経営面での専門家の支援
が必要です。どれが欠けてもうまくいきません。
しかし、各地の先進的な取り組みで、病床を削減している民間精神科病院もいくつか現れてきています。

英知を結集し、民間病院が可能な病床削減のプログラムを早急に開発すべきであると思います。

更新:2013/12/13

Blogカレンダー

2018年1月
« 11月  
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031 

Blogへの投稿

このサイトの検索

ページ上部へ戻る

Copyright @ Hideki Ueno. All Rights Reserved.