認知症の新しい施策について

平成27年1月27日、新しい認知症施策が発表されました。認知症施策推進総合戦略~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~(新オレンジプラン)です。

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000072246.html

この施策では、「当事者本位の支援モデルの構築」が基本的コンセプトとなっています。しかし、策定の最終段階で精神科病院の役割が強調された文言修正が入ったため、このコンセプトがぶちこわしになってしまいました。
認知症国家戦略/急ごしらえ、実効性に疑問@東奥日報2015年1月27日


<今回の新オレンジプラン策定の背景>

まず、今回の策定の経緯をおさらいします。
平成26年11月5日から7日にかけて認知症サミット日本後継イベントが開催されました。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000058871.html

世界10か国以上から、300人以上の参加があり、「新しいケアと予防のモデル」をテーマに活発な議論が行われました。11月6日の本会議開会式において、安倍内閣総理大臣が挨拶されました。
平成26年11月6日 認知症サミット日本後継イベント 総理の一日

「私は本日ここで、我が国の認知症施策を加速するための新たな戦略を策定するよう、厚生労働大臣に指示をいたします。我が国では、2012年に認知症施策推進5か年計画を策定し、医療・介護等の基盤整備を進めてきましたが、新たな戦略は、厚生労働省だけでなく、政府一丸となって生活全体を支えるよう取り組むものとします。」

これをうけて、「新オレンジプラン」が策定されることになりました。

「新オレンジプラン」という名称でもわかるとおり、平成24年9月に「今後の認知症施策の方向性について(H24.6.18)」に基づいて策定された「認知症施策推進5カ年計画(通称オレンジプラン)」の改訂版という位置づけでした。

このように、「新オレンジプラン」も「今後の認知症施策の方向性について(H24.6.18)」を受けた具体的施策だったのです。


<「今後の認知症施策の方向性について」とは>


平成24年6月18日に発表された「今後の認知症施策の方向性について」をご紹介します。
http://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/dementia/houkousei.html

まず、この報告書が策定された背景を考えてみます。

話は第2次世界大戦にさかのぼります。第2次世界大戦の反省から昭和20年に発足した国際連合では、昭和23年の世界人権宣言で「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利について平等である」とされるなど、一貫して人権保障が重要な課題とされてきました。世界の人口の約1割をしめると言われている障害者の人権に関する取り組みは、昭和40年代半ば頃から本格化しました。昭和50年に「障害者の権利宣言」が採択され、昭和56年には「障害者の完全参加と平等」を掲げて、「国際障害者年」が設定され、昭和58年から平成4年まで「国連障害者の十年」の取り組みがなされました。そして、平成10年代に入ると「障害者を含めたすべての人を包摂することが、すべての人にとって豊かな社会を作り出す方法である」という意味を込めた「万人のための社会(society for all)」という言葉が使われるようになりました。平成13年から検討が始まった障害者権利条約は、平成18年に国連総会で採択され、平成20年5月に発効したのです。

日本は平成19年に署名し、内閣府 障がい者制度改革推進会議などで関連法制度の整備を積極的に行い、平成26年2月に批准しました。

特に問題が多い精神保健医療分野に関しては、厚労省社会援護局 障害保健福祉部 精神・障害保健課が担当した審議会「新たな地域精神保健医療体制を構築するための検討チーム」で検討が行われました。そして、この検討チームの第2Rで「認知症と精神科医療」に関して議論が行われたのです。

そもそもなぜ、「認知症と精神科医療」に関する議論が必要になるのでしょうか。


<認知症とは>


認知症は医学的には、

いったん正常に発達した知的機能が持続的に低下し、複数の認知障害があるために日常生活、社会生活に支障をきたすようになった状態

と定義されています。認知症の人は日常生活、社会生活で支障を抱えているので、その生活を支援する必要があります。

認知症になると「認知機能障害」と「行動・心理症状(BPSD、周辺症状)」の2種類の症状が出てくると言われています。このうち、認知機能障害とは、脳の神経細胞が死滅・脱落することによって直接的に生じてくる症状で、記憶障害、見当識障害、判断力の低下などをいいます。認知症であれば、必ず脳の神経細胞の脱落が認められるので、認知症の人では認知機能障害は必発です。また、

 認知症の悪化=脳の神経細胞の脱落の進行

なので、認知症の進行に伴い、認知機能障害は増悪していきます。

それに対して、行動・心理症状とは「認知機能障害を持っている認知症の方に、もともとの性格、周囲の環境、人間関係などの様々な要因が絡み合って生じてくる症状」のことをいいます。すべての認知症の人に認められるわけではなく、一部の認知症の人に認められる症状です。具体的には、不安、抑うつ、興奮、徘徊、不眠、被害念慮、妄想などのことです。例えば、認知症の初期段階では、自分の認知機能障害に気づき、不安になったり、将来のことを考えて、抑うつ的になったりします。さらに認知機能障害が進行すると、忘れること自体を忘れてしまい、記憶障害に関する病識が失われるので、自分がしまい場所を忘れてなくしたものを「誰かが盗った」などと訴えたりすることがあります(物盗られ妄想⊆被害関係妄想)。こういった被害妄想のために興奮したりすることもあります。また、場所がわからなくなると徘徊が認められたりします。

認知症の行動・心理症状とは、もの忘れや判断力の低下で認知機能が低下した認知症の人が周囲の環境に適応ができずに混乱してしまった結果であったり、認知症の人の言葉にならないメッセージであったりするのです。認知症の人への支援が十分にあれば予防することも可能であり、改善も可能な精神症状です。



<認知症の人の精神科入院ニーズ>

現在の日本では、国民全体の認知症に関する理解が十分ではなく、認知症の人への支援が十分に提供されていないため、認知症の人に行動・心理症状などの精神症状が出てきてしまうことがあります。現状では、かなりひどい状態になる方もいるため、精神科病院への入院のニーズは高い状態が続いています。

        病院に入院中の  精神科病床に入院中
        認知症の人の数   の認知症の人の数

• 平成11年    54000人      36700人  

• 平成14年    71000人      44200人  

• 平成17年    81000人      52100人  

• 平成20年    75000人      51500人  

• 平成23年    80000人      53400人  

「新たな地域精神保健医療体制の構築に向けた検討チーム第2R」では、この増え続ける「認知症の人の精神科入院の問題」に関して活発な議論が行われました。
とりまとめの段階で、日本精神科病院協会出身構成員と事務局が進めようとした「入院期間を短くするだけの目標値」設定に一部委員が強く反対したのです。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001xah3.html

日精協出身構成員と事務局が設定しようとした「退院に着目した目標値」(報告書15ページ以降)は、

 平成32年度までに、精神科病院に入院した認知症患者(認知症治療病棟に入院した患者)のうち、50% が退院できるまでの期間を2ヶ月以内とする

というものでした。しかし、これはほとんど意味の無い目標設定です。
たとえば、ご家族のレスパイト目的での短期間の精神科病棟入院を入れれば、この目標値は簡単にクリアできます。現状でも、本来レスパイトを受けるべき介護施設のショートステイは数週間前に予約しないといけない状況で、そのニーズに十分に対応できておらず、ご家族のレスパイト目的での認知症の人の精神科入院は多いのです。

これに対して、一部委員が主張した「入院に着目した目標値」(報告書18ページ以降)は

 認知症の人の精神科入院を減らすためには、入院自体を減らす目標値を設定する必要がある

というものでした。至極当然の指摘であると思います。

この2つの立場が激しく対立し、とりまとめの段階で審議会の意見の一致に至りませんでした。

この問題をさらに深く検討するために、藤田一枝厚労省政務次官(当時)を主査とした「認知症施策検討プロジェクトチーム」が設置されました
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001wddm.html

外部の圧力をさけるため、チームは厚労省内のメンバーだけで組織され、H24.6.18に報告書「今後の認知症施策の方向性について」を発表しました。
http://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/dementia/houkousei.html


「今後の認知症施策の方向性について」報告書の内容

この報告書の中では、これまでの日本の認知症施策の再検討をしています。

「かつて、私たちは認知症を何も分からなくなる病気と考え、徘徊や大声を出すなどの症状だけに目を向け、認知症の人の訴えを理解しようとするどころか、多くの場合、認知症の人を疎んじたり、拘束するなど、不当な扱いをしてきた。今後の認知症施策を進めるに当たっては、常に、これまで認知症の人々が置かれてきた歴史を振り返り、認知症を正しく理解し、よりよいケアと医療が提供できるように努めなければならない。」

そして、今後の目標を次のように設定しました。

「このプロジェクトは、「認知症の人は、精神科病院や施設を利用せざるを得ない」という考え方を改め、「認知症になっても本人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で暮らし続けることができる社会」の実現を目指している。」

この「今後の認知症施策の方向性について」をうけて、同年9月に認知症施策推進5カ年計画(旧オレンジプラン)が策定され、平成25年から実施されていたのです。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002j8dh.html

「新オレンジプラン」の具体的問題点に関しては、次回に!

更新:2015/3/3

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