身体拘束を考える視点その2

2.身体拘束を減らすために

A.「専門性の壁」「密室性の壁」から考えた身体拘束削減の方法

医療機関における身体拘束には、
・専門性の壁
・密室性の壁
があるのではないかと考えています。

A-1.専門性の壁を崩すもの

医療機関における身体拘束に共通する「専門性の壁」を打ち壊すものが、杏林大学の長谷川先生が提唱されている身体拘束の可視化による検証可能性の担保になると思います。具体的には、身体拘束開始前からビデオ録画をすることです。この身体拘束の可視化によってかなりの抑制効果が期待できます。

そもそも医療機関における身体拘束をめぐるトラブルは、医療者側の身体拘束実施判断基準に本人、家族が納得できないことから生じてきます。医療者の判断基準が社会的な常識からかけ離れている可能性があるのです。身体拘束の可視化によって、こうしたことも修正が可能になるものと考えられます。

さらに、この身体拘束の可視化には二つの意義があるのではないかと思います。
 ・個別のケースに関する妥当性の検証材料
 ・今後の身体拘束削減(廃絶)に向けての検討材料

・個別のケースに関する妥当性の検証材料
これは、身体拘束に関する「専門性の壁」を破るためのものです。これによって大きな抑制効果が期待できます。
病院側にとっても、万一トラブルになったときに正当性を主張することができる大きな根拠になります。

・今後の身体拘束削減(廃絶)に向けての検討材料
プライバシーが担保された形で可視化データを提供することで、さまざまなバックグラウンドの人が集まって身体拘束削減に向けて意見を出し合うことができるようになります。今までほぼ医療者だけが検討していた身体拘束削減に向けた取り組み、さまざまな分野からいろいろな意見、アイディアを出していただいて、社会のあり方を含めた根本の部分からの身体拘束削減に向けた取り組みを本格化することができるようになります。
現在の医療者だけによる検討では、たとえば現行の法制度を前提にした検討しかできません。そうすると医療機関でありがちなリスク回避のために行動制限削減に対して及び腰になってしまうという現状を変えることは困難です。しかし、さまざまな分野の人を含めた検討、それもブレインストーミング的な検討が行われるようになれば、精神障害の人と共生していく社会のあり方、さまざまなリスクに対する法制度自体を変えて対応を考えていく方向性が生まれてくるかも知れません。

A-2.密室性の壁を崩すもの

もう一つ、精神科病棟において特に顕著な「密室性の壁」を崩すものは、身体拘束に関する情報の収集と入院している人ひとりひとりに病院、家族と関係のない権利擁護者をつけることです。

・身体拘束に関する情報の収集

身体拘束に関して病院から公開されている情報はほとんどありません。やむを得ず入院せざるを得ない場合に、入院させざるを得ない場合、身体拘束に関する情報に基づいて病院を選ぶことは難しいのが現状です。病院の口コミサイトはたくさんありますが、誰も情報の真偽について担保していません。地域包括や保健センターに問い合わせても、病院ににらまれると困るので、本当の情報は教えてくれないでしょう。そこで、活躍が期待されるのが、「精神科医療の身体拘束を考える会」などの民間団体です。
精神科医療の身体拘束を考える会

この団体には、全国からさまざまな情報が寄せられています。さらに、代表の長谷川利夫先生によると、「身体拘束をしない病院はないか」という問い合わせもあるそうです。
身体拘束に関する情報が整理され、病院を利用する際に参考にされるようになったら、病院も身体拘束に関する考え方を変えざるを得ません。身体拘束に関するとても大きな抑制効果が期待できます。

・入院している人ひとりひとりに病院、家族と関係のない権利擁護者をつけること

閉鎖病棟の中、侵されがちな人権を守るために、入院している人ひとりひとりに病院、家族と関係のない権利擁護者をつけることが重要です。特に「病院、家族と関係のない」ということがポイントです。こうした人が行動制限最小化委員会等へ外部委員として出席が認められるようになると、病院の文化は大きく変わっていくことでしょう。

<参考情報>
以前9ヶ月間だけですが、A級刑事施設の医務官をしていたことがあります。名古屋刑務所における被収容者の虐待事件があって、100年続いた監獄法が平成18年に改正されました。私が平成20年に赴任したときに導入されていた仕組みが、保護室入室時のビデオ録画です。刑事施設内でトラブルがあって、非常ベルがなると刑務官が集まってきます。その中にはかならずビデオカメラを持って現場に行く職員が複数いて、保護室入室前後の経緯を記録しているのです。
一日に何回も非常ベルは鳴ります。保護室入室はそれほど件数がありませんが、検証可能性が担保されることで、刑務官の被収容者に対する意識はずいぶん変わったのではないかと思っています。(旧監獄法時代の刑務官の著作を読むと、満期風を吹かせていた被収容者に対して背負い投げをして骨折させてしまったけれど、何らおとがめなし、みたいな記述があったりします。)

身体拘束を考える視点その3

更新:2018/1/12

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