1-1.認知症とは 

今回は、最初なので「認知症に関する基礎的な知識」をお話ししたいと思います。

皆さん、認知症とは何でしょうか?それは、ある「状態」のことをいいます。どういう状態かというと、
一旦正常に発達した知的機能が、持続的に低下して、社会生活に支障を来すようになった状態
です。
認知症イラスト

われわれは、脳の神経細胞の働きで、行動したり、考えたり、しゃべったりしています。認知症は、脳の神経細胞の働きが悪くなって、そのために知的能力が低下して、日常生活・社会生活に支障を来すようになった「状態」のことなんです。

認知症

認知症が疑われるとき、すなわち、物忘れが目立つようになったり、今までできていたことができなくなったりして、「あれっ、おかしいな」と思ったときに、大切なことがあります。それは、いわゆる「治療可能な認知症」を見逃さないということです。

治療可能な認知症では、まだ脳の神経細胞が死んでいないので、適切な治療を行えば、もとの健康な状態に戻るんですね。でも、そのままにしておくと治療可能な認知症でも神経細胞が死んでしまったりするので、早めの治療が大切になります。

認知症の状態には、
・まだ神経細胞が死んでいない「治療可能な認知症」

・神経細胞が死んでしまうために、脳の機能が低下して、もの忘れや判断力の低下が認められるようになり、日常生活・社会生活に支障を来すようになる「(普通の)認知症」
の二種類があるということになります。

<治療可能な認知症 コラム>

認知症が疑われたら、まず、こういった治療可能な認知症を除外します。すると残るのは脳の病気のために神経細胞が死んでしまった(ふつうの)認知症です。
<認知症 イラスト2>

こういった(ふつうの)認知症の状態になる原因の病気はたくさんあって、70種類くらいあるといわれています。70種類、とても多いですね、頭が痛くなりそうです。しかし、心配はご無用です。

日本では、三大認知症と呼ばれる
 アルツハイマー型認知症  60%
 血管性認知症       20%
 レビー小体型認知症    10%
が認知症の原因疾患の約9割を占めています。
つまり、この3つの病気がわかれば、認知症の原因の病気の9割がわかるということなんです。

これらの認知症の原因の病気の違いは何かというと、「脳の神経細胞の死に方」です。

それでは、この三大認知症に関して、「脳の神経細胞の死に方」を見てみましょう。

まず、アルツハイマー型認知症です。
アルツハイマーというのは、約100年ほど前にこの病気を最初に報告したオーストリアの精神科の先生の名前です。<アルツハイマー博士 イラスト化>
アルツハイマー型認知症では、脳の神経細胞はどのように死んでしまうのでしょうか。
これまでの多くの研究から、認知症の症状が出てくる20-30年ほど前に、老人斑といわれる異常な物質が脳にたまりはじめ、その後、神経細胞の中に神経原繊維変化と呼ばれる異常な物質がたまることで神経細胞が死んでしまうということがわかりました。
つまり、脳に老人斑ができて、脳の神経細胞に神経原線維変化という異常な物質がたまることで脳の神経細胞が死んでしまい、脳が萎縮し、その結果として認知症の状態になるのがアルツハイマー型認知症です。<アルツハイマー型認知症脳病変 イラスト化>
アルツハイマー型認知症では、物忘れからゆっくりと進行していくというのが特徴です。おかしいなと気づいたときには、すでに物忘れが進行していて、認知症が始まった日時をはっきりと特定することができないことが多いのです。

次に脳血管性認知症について、考えてみましょう。
脳血管性認知症では、いわゆる脳卒中発作、脳の血管が詰まる脳梗塞とか、脳出血が原因で脳の神経細胞が死んでしまい、その結果、認知症の状態になります。<脳卒中発作 イラスト>
脳卒中発作、脳梗塞や脳出血は急に起こります。こういった脳卒中発作のあとで認知症の症状が出てくるのが脳血管性の認知症です。脳卒中発作は繰り返してしまう人が多いので、血管性認知症では発作ごとに認知症の症状が階段のように進んでいくのが特徴です。<アルツハイマーと脳血管性 比較 イラスト化>

3つ目はレビー小体型認知症です。
これは、脳の神経細胞の中に「レビー小体」という異常な物質がたまって、神経細胞が死んでしまう病気です。「レビー」というのは、この物質を最初に発見したドイツの学者の名前です。
われわれは主に大脳の働きで考えたり、行動したりしていますが、その大脳皮質の神経細胞にレビー小体がたまって、神経細胞が死ぬとレビー小体型認知症になり、中脳という部分の神経細胞にレビー小体がたまって神経細胞が死ぬとパーキンソン病になります。<レビー小体>、<レビー小体 イラスト化><パーキンソン病 イラスト化>
このため、レビー小体型認知症は、パーキンソン症状があることが多いのです。また、この認知症で特徴的なのは、色鮮やかなはっきりとした幻視です。幻視の中の人物の洋服の模様がわかったりするような、色鮮やかさが特徴です。<レビー小体型認知症 幻視イラスト>
この認知症では、精神科の薬物に対する副作用が出やすいという特徴があります。

三大認知症のポイントは以下のようにまとめられます。

アルツハイマー型認知症
 →物忘れから始まってゆっくりと進行
脳血管性認知症
 →脳卒中発作のあとで、認知症の症状が階段状に進行
レビー小体型認知症
 →はっきりとした色鮮やかな幻視
  認知機能障害の存在(動揺性)
  パーキンソン症状

これを実際の症例で確認してみましょう。

今月の症例
症例1 アルツハイマー型認知症の女性
75歳女性 
夫が亡くなった5年前より物忘れが認められるようになり、徐々に進行しています。脳卒中発作を起こしたことはありません。現在は、息子夫婦と同居していますが、時々息子のことがわからなくなることがあります。
<評価>脳卒中発作を起こしたことがなく、数年前より物忘れが徐々に進行
    →アルツハイマー型認知症の可能性が高いと考えられます。
  時々同居している息子の顔がわからない。
    →すでに「人に関する見当識障害」があり、認知症の中核症状は重度だと考えられます。

症例2 血管性認知症の男性
70歳男性
もともと糖尿病があり、薬を内服していたが、あまり血糖値のコントロールはよくありませんでした。3年前の夏に脳梗塞の発作を起こし、救急病院に入院しました。軽い左半身の麻痺の後遺症が残り、リハビリ後に自宅に退院しました。発作1ヶ月後くらいから、物忘れがみられるようになり、夜間を中心におかしな言動が認められるようになりました。精神科の治療を受け、夜間のおかしな言動は改善しましたが、物忘れや理解力が低下してしまい、怒りっぽくなっています。
<評価>
脳卒中発作の1ヶ月後から物忘れ、判断力の低下などの認知症の症状が認められるようになった血管性認知症の方です。糖尿病や高血圧、心臓の不整脈などの病気を持っていると脳卒中発作を起こしやすい傾向があります。血管性認知症では、夜間におかしな言動を認める夜間せん妄を合併したり、感情的に不安定になったりすることがあります。

症例3 レビー小体型認知症の女性
65歳女性
一年前から物忘れが認められるようになりました。しばらくして、手の震えがみられるようになり、歩き方がぎこちなくなって倒れやすくなりました。夫と二人暮らしなのに食事を5人前用意したりしています。不審に思った夫が尋ねると「だって、そこに子供たちが3人遊んでいるでしょ。あの子たちにもご飯をあげるのよ。」と。まるで本当の子供がいるような色鮮やかな幻覚が見えているようです。
<評価>
レビー小体型認知症では、日中から現実的で詳細な内容の幻視がみられることがあります。色鮮やかで、はっきりした内容であることが多く、本当にそこにいるかのように話してくれます。また、パーキンソン症状を示すことが多いのも特徴の一つです。

まとめ
物忘れや今までできたことができなくなるなど、認知症が疑われる場合、まず大切なのは「治療可能な認知症」を除外するということです。なぜかというと「治療可能な認知症」ではまだ脳の神経細胞が死んでいないので、原因を治療すれば元通りになるからですね。こういった「治療可能な認知症」以外の認知症は、脳の神経細胞が死んでしまったために知的な能力が低下しています。原因の病気は、「脳の神経細胞の死に方」で区別されています。日本で多い、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症の三大認知症を理解しておきましょう。頭部CT、MRIなどの画像があれば診断はより正確になりますが、なければ診断できないというわけではありません。

更新:2013/1/1

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