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精神保健指定医の職務

精神保健福祉法では、精神障害者の人権制限規定のすべてを精神保健指定医の判断に任せています。

以下、精神保健指定医の職務です。

精神保健福祉法 第十九条の四(指定医の職務)
第一項 ←勤務先の医療機関における職務

指定医は、第二十一条第三項(任意入院者の72時間の退院制限)及び第二十九条の五(措置入院の解除)の規定により入院を継続する必要があるかどうかの判定、第三十三条第一項(医療保護入院)及び第三十三条の七第一項(応急入院)の規定による入院を必要とするかどうか及び第二十条の規定による入院(=任意入院)が行われる状態にないかどうかの判定、第三十六条第三項に規定する行動の制限(隔離その他の行動制限)を必要とするかどうかの判定、第三十八条の二第一項(措置入院の定期報告の作成のための診察)(同条第二項において準用する場合(医療保護入院の定期報告作成のための診察)を含む。)に規定する報告事項に係る入院中の者の診察並びに第四十条(措置入院者の仮退院)の規定により一時退院させて経過を見ることが適当かどうかの判定の職務を行う。

第二項  指定医は、前項に規定する職務のほか、公務員として、次に掲げる職務を行う。 ←みなし公務員としての職務

一  第二十九条第一項及び第二十九条の二第一項の規定による入院を必要とするかどうかの判定
   ←措置入院、緊急措置入院の判定
二  第二十九条の二の二第三項(第三十四条第四項において準用する場合を含む。)に規定する行動の制限を必要とするかどうかの判定
   ←措置入院者の移送時の行動制限の判定
三  第二十九条の四第二項の規定により入院を継続する必要があるかどうかの判定
   ←措置入院の解除の判定
四  第三十四条第一項及び第三項の規定による移送を必要とするかどうかの判定
   ←医療保護入院のための移送の必要性の判定
五  第三十八条の三第三項(同条第六項において準用する場合を含む。)及び第三十八条の五第四項の規定による診察
   ←精神医療審査会の審査における診察、退院等の請求による審査のための診察
六  第三十八条の六第一項の規定による立入検査、質問及び診察
七  第三十八条の七第二項の規定により入院を継続する必要があるかどうかの判定
八  第四十五条の二第四項の規定による診察

いろいろありますが、重要なのは、非自発的入院の必要性の判定、任意入院の退院制限、入院中の行動制限(隔離・拘束)の指示になります。

非自発的入院を必要とするかどうかの判定
 非自発的入院には、医療保護入院、措置入院、応急入院があります。

各入院の要件は
<医療保護入院>
精神障害者であること、医療及び保護のために入院が必要であること、任意入院が行われる状態にないこと、家族等の同意
      +指定医の診察で必要性が認められること

<措置入院>
精神障害者であること、医療及び保護のためにその者を入院させなければ、その精神障害のために自傷他害のおそれがあること
      +指定医2名の診察の結果の一致
<緊急措置入院> 指定医2名を用意できない緊急時のための規定 緊急措置入院の有効期間は72時間
精神障害者であること、医療及び保護のためにその者を入院させなければ、その精神障害のために自傷他害のおそれが著しいこと
      +指定医1名の診察

←措置入院、緊急措置入院は、都道府県知事による行政処分です。そのため、指定医の診察は第十九条の四第二項のみなし公務員としての職務になります。

<応急入院>
家族等の同意をとることができない場合の特殊な入院形態。有効期間は72時間。応急入院対応病院でしかできません。
      ←滅多にありません。私も松沢病院で数例しか経験ありません。
          
任意入院の退院制限(第二十一条第三項)
 任意入院の人が「退院したい」と言い出したら、多くの場合、この規定を利用して72時間の退院制限をかけます。そして72時間の間に医療保護入院に変更してしまうのです。
  →任意入院において、「入院の自由」はありますが、「退院の自由」はありません。

行動制限の必要性の判定(第三十六条第三項に規定する行動の制限)
 入院中の精神障害者に対して、隔離や拘束などの行動制限を指示することができます。

このほか、措置入院の解除の判定も行います。措置入院は都道府県知事による行政処分なので、措置入院の解除(=退院)の決定も都道府県知事が行います。
東京都の場合、措置入院の解除を申請して、実際に解除されるのに約1ヶ月の時間がかかりました。本当に退院して大丈夫なのか、確認するための期間だったらしいです。

精神障害者申請通報届出数、入院形態別患者数(平成25年度)
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei_houkoku/13/dl/kekka1.pdf

このデータによると平成25年度末の措置入院者数は1,428人、平成25年度の医療保護届出件数は211,980件だそうです。

東京新聞に指定医不正取得問題に関する社説が掲載されました(平成27年4月24日付)。
精神保健指定医 「性善説」では立ち行かぬ

更新:2015/4/22

川田龍平参院議員の指定医不正取得問題に関する国会質問

川田龍平参院議員の参院厚生労働委員会における指定医不正取得問題に関する質問です。(H27.4.21)

更新:2015/4/21

指定医不正取得問題の根幹

今回の指定医不正取得問題の根幹には以下の二つの問題があります。これらは精神障害者の人権制限に関わることなので、きわめて重大な問題です。

1.精神保健福祉法における精神障害者の人権制限規定が、精神保健指定医への過剰な信頼に基づいて制度設計されていること
 →精神保健指定医の恣意的な判断による人権制限を防ぐことができない制度になっていること
 →精神科病棟が強大な権力を持った精神保健指定医を頂点としたピラミッド型の権力構造になっていること
2.精神保健指定医の資格認定が精神科医の性善説に基づいており、悪用して資格取得することが可能な制度設計になっていること
 ←そもそも誰が書いたかわからないケースレポートを合否判定の基礎にしているのが大きな問題

今回は、2.の問題点を悪用した不正取得であったということです。これは氷山の一角にすぎないとの指摘もあり、日本の精神科医療体制への信頼が根本から揺らいでいます。
マスコミでは不正取得した指定医による精神障害者の人権制限の問題が取り上げられていますが、もっと根幹の制度設計上の瑕疵を指摘すべきであると思います。この制度をこのまま放置すれば、同じようなことが起こることが防げないのです。

この問題をきっかけに精神保健福祉法の根本的な問題を指摘し、抜本的改正を行うことが必要であると思います。

法律の名前は変わりましたが、精神保健福祉法の立法趣旨は明治33年の精神病者監護法の昔と変わらず、「社会にとって困った存在となりうる精神障害者に医療及び保護を与えるという名目で、社会から隔離・収容すること」です。
そして、精神保健福祉法では、医療者特に精神保健指定医に強大な権限が与えられています。
精神保健福祉法が規定する、精神科病院における精神保健指定医を頂点としたピラミッド型の権力構造が様々な問題を引き起こしています。

たとえば、精神科病院や介護施設等で時々みられる、職員による利用者の虐待事件に関してです。

こうした施設で虐待事件が起きると、多くの場合、「問題がある職員が虐待をした」という形で、個人の責任を追及してしまいがちです。
もちろん、そういった要因があることは否定できないと思いますが、私はこうした虐待事件でがその組織自体の問題点がより大きな役割を果たしている場合が多いと考えています。

特にピラミッド型の権力的な構造を持った組織では、人権侵害が起こりやすい傾向があります。
多くの精神科病棟は閉鎖病棟であり、密室です。その中は、医師を頂点としたピラミッド型の権力構造になっています。
精神科病棟は、そこに入院している人にとってだけではなく、働いているスタッフにも恐ろしいところです。精神保健福祉法に定められた手続きを踏めば、合法的に入院患者の人権制限が可能になっています。医師だけではなく、働いているスタッフすべてに、入院している患者の人権を制限することの問題意識が希薄です。法に定められた手続きを踏めば、許されると考えています。数々の不祥事で、行動制限の要件は厳しくなりましたが、現場のスタッフに「行動制限を減らそう」という意識はなかなか生まれてきません。「必要があって行動制限をしている。要件を満たして行動制限をできるようにしよう。」と考えてしまいます。

精神科病院で働いているスタッフの方のブログです。
医療・福祉の日記もどき
立命館大学 生存学研究センターの精神科病院での不祥事に関するページです。
精神病院不祥事件

管理者も同様なので、ひどい場合にはスタンフォード監獄実験のような状態になってしまうことがあります。

スタンフォード監獄実験で明らかになったのは、権力を持つ人間が持たない人間と狭い空間で一緒にいると次第にびっくりするような虐待をしてしまう可能性があること、そして「普通の人」が組織の中で役割を与えられただけでそうなってしまうということでした。特定の個人に責任があるというよりも、システムに問題があるために虐待や人権侵害が生じてしまうのです。

スタンフォード監獄実験の責任者だった人のTED講演「フィリップ・ジンバルド:普通の人がどうやって怪物や英雄に変貌するか」を見ました。

なかなか素晴らしいのでご覧ください。

「悪」は「力の間違った行使」です。スタンフォード監獄実験でわかったことは、「環境によって、所属する組織のシステムによって、普通の人が極悪なことを平気でしてしまう」ということでした。イランのアルグレイブ刑務所での信じられないような虐待も「普通の兵士」がしたことでした。

権力を与える場合には、それが濫用されないように細心の注意を払わなければなりません。

精神科の閉鎖病棟においては、医療者に強大な権限が与えられています。
現状の法制度に基づくあの環境では、その濫用を防ぐことができません。
「普通の人、普通の医療者が虐待をしてしまう」のを防げないのです。
制度を変えてあの環境を変えるか、必要ないのであれば閉鎖すべきだと考えています。

東京新聞に指定医不正取得問題に関する社説が掲載されました(平成27年4月24日付)。
精神保健指定医 「性善説」では立ち行かぬ

更新:2015/4/20

精神保健指定医 不正取得問題

川崎市の聖マリアンナ医大病院にて精神保健指定医資格の不正取得が明らかとなり、20人の指定医資格が取り消されました。

これは日本の精神科医療制度を根本から揺るがす大問題です。

精神科医療は精神保健福祉法で規定されています。私たち精神科医は、精神保健福祉法に則って医療を提供するように訓練されます。そして、精神保健指定医の資格を持つと強制的な入院の決定や入院中の行動制限の指示が出せるようになります。精神保健指定医は、5年間以上の臨床経験(うち3年以上の精神科臨床経験)を持つ医師が所定の講習を受講し、8例のケースレポートを提出し合格すると厚生労働大臣から与えられる資格です。8例のケースレポートの採点ポイントは、精神保健福祉法に定められた非自発的入院制度や行動制限の制度に関してきちんと理解しているかどうか、です。
満足のいく内容のケースレポートを書くのはとても大変です。私もずいぶん苦労しました。
また、私の指導の下で診療をしたケースレポートの添削をいくつかやりましたが、このレポートを読むと書いた人がどの程度精神科医療に関して理解しているか、日本の精神科医療制度に関して理解しているか、手に取るようにわかります。

そして、精神保健福祉法における精神障害者の人権制限規定は、過剰とも言える精神保健指定医への信頼のものとに成り立っています。
この精神保健指定医への信頼は、法律に規定された臨床経験を積み、きちんと症例を診療して、ケースレポートも自分で書いたという前提の元に成り立っているものです。

そもそも精神保健福祉法に規定されている行動制限の手続きは、一人の精神保健指定医に権限が集中しており、本人の権利を守るための仕組みがありません。精神保健指定医の恣意的な判断による行動制限を防止することができない制度設計になっており、「個人の尊厳を尊重し、人権に配慮した適正手続き」とはいいがたいものです。
さらに今回のような不正があきらかになったことで、精神保健指定医の資格に対する根本的な信頼が崩れ去りました。

改善のためには、本人の権利を守る仕組み、例えば、入院患者一人一人に権利擁護者をつけるなどの仕組みが必要です。

厚労省の審議会「新たな精神保健医療体制の構築に向けた検討チーム第3R」でも入院制度、保護者制度に関する議論があり、入院患者一人一人に権利擁護者をつけることなどが検討されました。
新たな地域精神保健医療体制の構築に向けた検討チーム

しかし、入院患者が30万人以上、非自発的入院に限っても全国に12万人以上いる現状では、対象者数が多すぎて制度構築が困難なのです。
病床数の削減が急務です。

東京新聞に指定医不正取得問題に関する社説が掲載されました(平成27年4月24日付)。
精神保健指定医 「性善説」では立ち行かぬ

更新:2015/4/18

2つの2割 ~日本の精神病床数

日本の精神病床数は、約34万床。
これは世界の精神病床数175万床の約2割、日本の病床総数の約2割に当たる数字です。

WHO の World Health Statistics 2014のデータです。
WHO World Health Statistics 2014

Part III. Global health indicators 130ページからの 6.Helth Systems に Psychiatric beds(per 10000 population,2006-2010) という欄があります。

これをみると、最も多いのは日本の27.8となっています。そして、138ページにGlobalという欄があり、2.5という数字が出ています。

世界の人口は、2011年に70億人を突破したそうなので、世界の精神病床数は、
70億×2.5/10000=約175万床
ということになります。

「もう一つの2割」の方の「日本の病床総数と精神病床数」です。

厚生労働省平成25年医療施設(動態)調査・病院報告の概況 医療施設調査

        平成25年度      平成24年度
病床総数   1,695,210       1,703,950
精神病床数  339,780        342,194

更新:2015/4/9

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