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川田龍平参院議員の指定医不正取得問題に関する国会質問

川田龍平参院議員の参院厚生労働委員会における指定医不正取得問題に関する質問です。(H27.4.21)

更新:2015/4/21

指定医不正取得問題の根幹

今回の指定医不正取得問題の根幹には以下の二つの問題があります。これらは精神障害者の人権制限に関わることなので、きわめて重大な問題です。

1.精神保健福祉法における精神障害者の人権制限規定が、精神保健指定医への過剰な信頼に基づいて制度設計されていること
 →精神保健指定医の恣意的な判断による人権制限を防ぐことができない制度になっていること
 →精神科病棟が強大な権力を持った精神保健指定医を頂点としたピラミッド型の権力構造になっていること
2.精神保健指定医の資格認定が精神科医の性善説に基づいており、悪用して資格取得することが可能な制度設計になっていること
 ←そもそも誰が書いたかわからないケースレポートを合否判定の基礎にしているのが大きな問題

今回は、2.の問題点を悪用した不正取得であったということです。これは氷山の一角にすぎないとの指摘もあり、日本の精神科医療体制への信頼が根本から揺らいでいます。
マスコミでは不正取得した指定医による精神障害者の人権制限の問題が取り上げられていますが、もっと根幹の制度設計上の瑕疵を指摘すべきであると思います。この制度をこのまま放置すれば、同じようなことが起こることが防げないのです。

この問題をきっかけに精神保健福祉法の根本的な問題を指摘し、抜本的改正を行うことが必要であると思います。

法律の名前は変わりましたが、精神保健福祉法の立法趣旨は明治33年の精神病者監護法の昔と変わらず、「社会にとって困った存在となりうる精神障害者に医療及び保護を与えるという名目で、社会から隔離・収容すること」です。
そして、精神保健福祉法では、医療者特に精神保健指定医に強大な権限が与えられています。
精神保健福祉法が規定する、精神科病院における精神保健指定医を頂点としたピラミッド型の権力構造が様々な問題を引き起こしています。

たとえば、精神科病院や介護施設等で時々みられる、職員による利用者の虐待事件に関してです。

こうした施設で虐待事件が起きると、多くの場合、「問題がある職員が虐待をした」という形で、個人の責任を追及してしまいがちです。
もちろん、そういった要因があることは否定できないと思いますが、私はこうした虐待事件でがその組織自体の問題点がより大きな役割を果たしている場合が多いと考えています。

特にピラミッド型の権力的な構造を持った組織では、人権侵害が起こりやすい傾向があります。
多くの精神科病棟は閉鎖病棟であり、密室です。その中は、医師を頂点としたピラミッド型の権力構造になっています。
精神科病棟は、そこに入院している人にとってだけではなく、働いているスタッフにも恐ろしいところです。精神保健福祉法に定められた手続きを踏めば、合法的に入院患者の人権制限が可能になっています。医師だけではなく、働いているスタッフすべてに、入院している患者の人権を制限することの問題意識が希薄です。法に定められた手続きを踏めば、許されると考えています。数々の不祥事で、行動制限の要件は厳しくなりましたが、現場のスタッフに「行動制限を減らそう」という意識はなかなか生まれてきません。「必要があって行動制限をしている。要件を満たして行動制限をできるようにしよう。」と考えてしまいます。

精神科病院で働いているスタッフの方のブログです。
医療・福祉の日記もどき
立命館大学 生存学研究センターの精神科病院での不祥事に関するページです。
精神病院不祥事件

管理者も同様なので、ひどい場合にはスタンフォード監獄実験のような状態になってしまうことがあります。

スタンフォード監獄実験で明らかになったのは、権力を持つ人間が持たない人間と狭い空間で一緒にいると次第にびっくりするような虐待をしてしまう可能性があること、そして「普通の人」が組織の中で役割を与えられただけでそうなってしまうということでした。特定の個人に責任があるというよりも、システムに問題があるために虐待や人権侵害が生じてしまうのです。

スタンフォード監獄実験の責任者だった人のTED講演「フィリップ・ジンバルド:普通の人がどうやって怪物や英雄に変貌するか」を見ました。

なかなか素晴らしいのでご覧ください。

「悪」は「力の間違った行使」です。スタンフォード監獄実験でわかったことは、「環境によって、所属する組織のシステムによって、普通の人が極悪なことを平気でしてしまう」ということでした。イランのアルグレイブ刑務所での信じられないような虐待も「普通の兵士」がしたことでした。

権力を与える場合には、それが濫用されないように細心の注意を払わなければなりません。

精神科の閉鎖病棟においては、医療者に強大な権限が与えられています。
現状の法制度に基づくあの環境では、その濫用を防ぐことができません。
「普通の人、普通の医療者が虐待をしてしまう」のを防げないのです。
制度を変えてあの環境を変えるか、必要ないのであれば閉鎖すべきだと考えています。

東京新聞に指定医不正取得問題に関する社説が掲載されました(平成27年4月24日付)。
精神保健指定医 「性善説」では立ち行かぬ

更新:2015/4/20

精神保健指定医 不正取得問題

川崎市の聖マリアンナ医大病院にて精神保健指定医資格の不正取得が明らかとなり、20人の指定医資格が取り消されました。

これは日本の精神科医療制度を根本から揺るがす大問題です。

精神科医療は精神保健福祉法で規定されています。私たち精神科医は、精神保健福祉法に則って医療を提供するように訓練されます。そして、精神保健指定医の資格を持つと強制的な入院の決定や入院中の行動制限の指示が出せるようになります。精神保健指定医は、5年間以上の臨床経験(うち3年以上の精神科臨床経験)を持つ医師が所定の講習を受講し、8例のケースレポートを提出し合格すると厚生労働大臣から与えられる資格です。8例のケースレポートの採点ポイントは、精神保健福祉法に定められた非自発的入院制度や行動制限の制度に関してきちんと理解しているかどうか、です。
満足のいく内容のケースレポートを書くのはとても大変です。私もずいぶん苦労しました。
また、私の指導の下で診療をしたケースレポートの添削をいくつかやりましたが、このレポートを読むと書いた人がどの程度精神科医療に関して理解しているか、日本の精神科医療制度に関して理解しているか、手に取るようにわかります。

そして、精神保健福祉法における精神障害者の人権制限規定は、過剰とも言える精神保健指定医への信頼のものとに成り立っています。
この精神保健指定医への信頼は、法律に規定された臨床経験を積み、きちんと症例を診療して、ケースレポートも自分で書いたという前提の元に成り立っているものです。

そもそも精神保健福祉法に規定されている行動制限の手続きは、一人の精神保健指定医に権限が集中しており、本人の権利を守るための仕組みがありません。精神保健指定医の恣意的な判断による行動制限を防止することができない制度設計になっており、「個人の尊厳を尊重し、人権に配慮した適正手続き」とはいいがたいものです。
さらに今回のような不正があきらかになったことで、精神保健指定医の資格に対する根本的な信頼が崩れ去りました。

改善のためには、本人の権利を守る仕組み、例えば、入院患者一人一人に権利擁護者をつけるなどの仕組みが必要です。

厚労省の審議会「新たな精神保健医療体制の構築に向けた検討チーム第3R」でも入院制度、保護者制度に関する議論があり、入院患者一人一人に権利擁護者をつけることなどが検討されました。
新たな地域精神保健医療体制の構築に向けた検討チーム

しかし、入院患者が30万人以上、非自発的入院に限っても全国に12万人以上いる現状では、対象者数が多すぎて制度構築が困難なのです。
病床数の削減が急務です。

東京新聞に指定医不正取得問題に関する社説が掲載されました(平成27年4月24日付)。
精神保健指定医 「性善説」では立ち行かぬ

更新:2015/4/18

2つの2割 ~日本の精神病床数

日本の精神病床数は、約34万床。
これは世界の精神病床数175万床の約2割、日本の病床総数の約2割に当たる数字です。

WHO の World Health Statistics 2014のデータです。
WHO World Health Statistics 2014

Part III. Global health indicators 130ページからの 6.Helth Systems に Psychiatric beds(per 10000 population,2006-2010) という欄があります。

これをみると、最も多いのは日本の27.8となっています。そして、138ページにGlobalという欄があり、2.5という数字が出ています。

世界の人口は、2011年に70億人を突破したそうなので、世界の精神病床数は、
70億×2.5/10000=約175万床
ということになります。

「もう一つの2割」の方の「日本の病床総数と精神病床数」です。

厚生労働省平成25年医療施設(動態)調査・病院報告の概況 医療施設調査

        平成25年度      平成24年度
病床総数   1,695,210       1,703,950
精神病床数  339,780        342,194

更新:2015/4/9

精神医療改革

日本の精神科医療には大きな問題が山積しています。

改革の動きもいくつかあります。
現在の改革は、「長期入院患者の解消」をメインターゲットにしています。
精神科病棟に長期入院している人は、疾病だけではなく、「長期入院していた」ということによる後遺症の影響が大きく、一筋縄ではいかない人ばかりです。長期入院者は、ある意味で「保護されている」とも表現できる特殊な環境に長期間いたために、疾病の影響も相まって環境変化に適応する能力が大きく低下してしまっています。

こうした人々をまじめに支援してきた支援者は、地域移行のために環境変化の少ない「病棟転換型居住系施設」を容認する立場になりがちです。

また、現状では精神保健福祉法に規定される強制医療が必要なケースが存在することは確かですが、今後の社会の成熟に伴って減少していくものと思います。こうした社会的な役割を失いつつある精神科病棟とその看板を変えただけの病棟転換型居住系施設を社会からなくすべきという原則論に忠実な人は、「病棟転換型居住系施設」に絶対に反対の立場となります。
何を重視するかが異なるので、議論があまりかみ合いません。後ろでほくそ笑んでいるのが日本精神科病院協会という構図になっています。

フィンランドの改革やベースとなったオープン・ダイアローグ・アプローチ(ODA)の考え方を参考にすると、精神科医療改革は精神科急性期の対応を変えることがポイントになるのではないかと考えています。

こころの科学に伊勢田堯先生が「フィンランドとベルギーの精神医療改革」と題する論文を執筆されました。
・伊勢田堯:フィンランドとベルギーの精神医療改革-発病早期の治療vs長期入院の解消.こころの科学No.180、63-69、2015

この論文によれば、オープン・ダイアローグ・アプローチを中心とした発病最初期の段階から、患者・家族を支援する早期介入サービスの導入による精神医療改革に着手したフィンランドでは、統合失調症の1年以上の入院患者はゼロになり、脱施設化も順調に進んだそうです。

日本の精神科救急の世界では、「隔離・拘束などの行動制限は暴れている患者に安全に近づくことができるきわめて有効な手段であり、もっと活用することが重要だ」みたいな主張が大手を振ってなされているそうなので、ここら辺からかえることかなと思っています。

以下、私が伊勢田先生の論文から理解したところを記載します。

・フィンランドの精神医療改革について
過去に現在の日本以上の隔離収容大国だったフィンランドは、昨今の病院中心から地域ケアへの精神医療改革が功を奏し、脱施設化が順調に進んだ。

人口1000人あたりの精神科病床数
1980年 4.0 →1990年 2.3 →2000年 1.0 →2009年 0.84 →2014年 0.71
ちなみに現在の日本は、2.69です。

・改革の中心は1990年からのオープン・ダイアローグ・アプローチ(ODA)の全国展開 ←統合失調症患者への早期介入(発生予防、慢性化予防)の取り組み

オープン・ダイアローグとはフィンランドの西ラップランド精神保健圏域で展開されている精神科治療システムです。
ドキュメンタリー映画がYOUTUBEで公開されています。(74分)



統合失調症圏の精神障害の初回エピソードに対して、8割以上が障害を残さずに回復、5年後に薬物療法をしているのはわずかに33%のケースのみという驚異的な治療成績を残しています。「統合失調症は慢性進行性疾患」を常識にしている、私たち日本の精神科医療では考えられないことです。

雑誌「精神看護」の2015年3月号に論文が載っています。
・下平美智代:さらに見えてきたオープンダイアローグ フィンランド、ケラプダス病院見聞録.精神看護vol18,No.2、p.106-122、2015

この論文の中にある、初回エピソードで旧来の精神科医療の治療を受け、2回目のエピソードでオープンダイアローグの治療をうけたある女性の言葉です。
「これは1年前の私の最初の病気の時と比べてとても違っています。その時、私の家族は医師と会いました。その医師の主な関心は、家族の皆にいかに私がおかしいか聞き出すことでした。私がまるでそこにいないかのようでした。今はすべてが違います。私はここに居て尊重されています。」

これは、イタリア トリエステでの精神障害の急性期の人に対する対応にとてもよく似ています。

・取り組みの成果
 1年以上入院した統合失調症患者はゼロになった。
   ←これに対して日本では、「入院中の精神障害者のうち、1年未満入院者の平均退院率」を平成26年度に76%にする目標を立てていますが、
    平成20年度 71.2%  平成24年度 71.3%
    とほとんど改善が認められていません。
 すべての統合失調症障害(統合失調症及び統合失調症型精神病)患者は有意に減少した。このうち減少したのは統合失調症だけであった。
 →初回接触の患者の全体数は減少していないので、精神科の危機から統合失調症になるケースが減少したことは明らかのようだ。
  統合失調症の現象を治療不可能な病理と解釈することはできない。
  ODAは統合失調症を予防していないとしても、少なくとも慢性化予防にはなっている。

・新たな取り組みは重度の精神保健問題発生に強い影響をもたらし得ることが示唆された。
 これらの成果は危機の際に現場の大勢の関係者が参加したことによって支えられたものである。

フィンランドの精神医療改革のポイント
・改革のリーダー達が、「ヒューマニズムに基づいた精神医療」を創造するという崇高な理想を掲げて邁進したこと
・発病最初期の段階から、患者・家族を支援する早期介入サービスの導入による精神医療改革に着手したこと
 (←これに対して、日本では長期入院患者の解消を改革のターゲットにしている)
・隔離収容のサービスが染みついた職員への研修に多大な努力を払ったこと ←個人的にはこの点に興味があります。

日本の精神科医療改革でも、質のいい早期介入サービスを充実させるのが大切なのではないかと思いました。もちろん、この「早期介入サービス」とは精神科薬物療法を中心とした介入ではなくて、オープンダイアローグなどの「現場の大勢の関係者」が暖かく関わるタイプの急性期介入です。

私はずっと急性期に隔離・拘束などの行動制限を多用した強制的な精神科医療に慣れ親しんできましたが、こうした急性期介入のあり方が実は大きな問題なのではないかと思い始めています。
統合失調症などの内因性の精神病においても、精神症状は環境的な要因の影響を受けやすいものです。日本の急性期における精神科医療の、本人の意思を無視した強制的な対応が、その後の精神疾患の予後に大きな悪影響をもたらしていると思われてなりません。
隔離・拘束などの行動制限を多用し、精神科薬物療法を治療の中心に据えた「日本の通常の精神科急性期介入」を行うと、数%の「重度かつ慢性」という人(国の審議会ではnew long stayなどと呼んでいます)を生み出してしまうのではないでしょうか。

ところで、このnew long stay だとか old long stayだとか、とんでもない用語だと思います。この表現だと精神障害の当事者がまるで自分の意思で精神科病院にいるようなイメージになってしまいます。

もう一つのベルギーの精神医療改革についてです。

ベルギーには、国民皆保険制度があり、精神科医療は民間単科精神科病院が中心で、精神科病床数が多く、平均在院日数が長いなど、日本と同じような特徴を持っています。日本精神科病院協会では、平成24年5月の将来ビジョン報告書の中でベルギーの1990年改革を成功例として紹介し、介護精神型老人保健施設の創設を主張しました。
http://www.nisseikyo.or.jp/news/jimukyoku/757.html

日精協の将来ビジョン報告書をかいつまんでみると・・・

ベルギーでは1990年から、精神科病床削減を目的とした新型ナーシングホームPVTuが創設された。病棟転換型のPTVuも認められ、普及が進んだ。PTVuは病院敷地内で、一回限りの使用とされ、患者が亡くなればそのベッドは封印され、患者の利用率が下がれば自然とその施設は閉鎖されることになっていた。PVTuは「入口を別に設ければ同じ敷地内でもよい・・・」等、規則が緩和され、病棟からの転換が容易であった・・・
などと今回の病床転換型居住系施設ときわめてよく似た施設がつくられた。

しかし、このベルギーの1990年改革は残念ながら、少ない人手で大型の施設収容的環境のまま長期入院患者を囲うことになってしまい、失敗におわりました。

2010年から新たな改革が始まりました。精神科病院の病床削減と、人口に応じた地域別の必要なモバイルチーム(急性治療チームと慢性期治療チーム)を病院で立ち上げることをセットにし、私立精神科病院の総体としての予算を確保する形で、病院医療から地域ケアへの転換を図っているようです。実際にこの6年間で急速に脱施設化が進行し、伊勢田論文によれば改革は軌道に乗っているようです。

これに対して日本では、当事者団体の強い反対を押し切り、病棟転換型居住系施設を認める政策を打ち出しました。これは、精神科病棟をそのまま介護施設、グループホームやアパートその他の居住系施設への転換を認めるもので、ベルギーで失敗に終わった1990年改革をモデルにしたものです。
せっかくのベルギーでの20年間の社会実験の教訓は活かされませんでした。

病棟転換型居住系施設を検討した国の審議会(精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針等に関する検討会)委員だった方からのメ-ルです。

>国の審議会では昨年の国検討会でもしきりと取り上げられたベルギーの話ですが、
>病棟転換容認派は国情が似ていることをベースに、転換施設を導入したベルキーを
>礼賛、しかし検討途中に「時間の推移で改革を見直したベルギー」のことが情報として
>出回ると、ぱったりと“ベルギー話”は止みました。

更新:2015/4/2

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