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北海道浦河町 べてるの家訪問記

3月8日(日)から12日(木)にかけて、北海道浦河町べてるの家を訪問してきました。
少し長いですが、訪問記を書きました。

べてるの家訪問記

北海道浦河町のべてるの家は、「当事者研究」で有名です。
べてるねっと



これは、精神障害の当事者が自らの精神障害を詳しく研究し、その精神症状の特徴を見つけ出すことで有効な対処法を身につけていくやり方です。
精神科薬物療法で精神症状を押さえ込むやり方は、正常な人間としての活動も抑え込んでしまうので、たいへんに副作用が大きいのですが、このやり方はだいぶ違います。

また、べてるの家は「精神障害があること」を隠さずにオープンにすることで、全国各地から人々の注目を集め、さらに日高地方の名産品の販売で、地域の中で注目される経済力を持っています。








過疎化が進む地域の中で、べてるの家は地域経済を引っ張る大きな力になっています。
障害のある人が「経済力をつけて地域社会から必要とされる存在となる」というモデルになっています。

浦河町では、浦河日赤病院の精神科病床60床が休床になり、地域で精神科病床がなくなりました。
こうした状況の中、認知症の人を支える社会をつくるための指針を、ということで講演に呼ばれていったのです。

当初8日日曜日から10日火曜日までの予定でしたが、帰京予定の10日火曜日に飛行機が飛ばず、12日に東京に戻りました。

更新:2015/3/24

精神科病棟の問題点

先日、認知症ケアの専門家が認知症精神科病棟を見学し、その中での処遇に驚愕したというお話を聞きました。認知症精神科病棟も日本の精神科医療の問題点をそのまま引き継いでいます。

日本の精神科医療の問題点は、
・民間精神科病床が過剰に存在していること
・精神保健福祉法の問題
の2点に集約されます。

世界の精神科病床185万床の約2割にあたる35万床の精神科病床が日本にあります。そして、その9割が民間病床です。日本にだけ入院を必要とする精神障害の人が多いわけではありません。さらに治療技術の進歩と社会意識の変革により、入院を必要とする精神障害者は減り続けています。
その一方で現在の日本では、認知症の人を支える社会的な支援が不十分なために、精神症状を生じてしまう認知症の人が多く存在しています。さらに民間事業者は保有する設備を活用しないと経営が維持できないため、民間精神科病院では「入院してくれる人」を求めています。この「精神症状のある認知症の人の入院ニーズ」と「入院する人を集めたい民間精神科病院のニーズ」がぴたりと一致して、現在の日本では認知症の人の精神科入院が増えているのです。世界的に見てきわめて非常識で異常な状態です。

        病院に入院中の  精神科病床に入院中
        認知症の人の数    の認知症の人の数

• 平成11年    54000人      36700人  
• 平成14年    71000人      44200人  
• 平成17年    81000人      52100人  
• 平成20年    75000人      51500人  
• 平成23年    80000人      53400人  

精神科医療は精神保健福祉法によって規律されています。
精神保健福祉法は、決して精神障害のある人の自立支援、自己決定権行使のための法律ではなく、精神障害者の社会からの隔離・収容のための法律であり、深刻な問題点を内包しています。この法律に従って医療を提供していると、自然に上から目線で管理的な医療になってしまいます。

日本ではじめて精神障害に関する法律が出来たのは1900年(明治33年)の精神病者監護法です。精神病者監護法の立法趣旨は、問題を起こす可能性のある精神障害者の社会からの隔離と管理でした。
そして、精神病者監護法では、自宅に牢屋のような監置場所をつくって、そこに精神障害者を監置するという、世界に類のない私宅監置制度(座敷牢)が認められました。この私宅監置制度を管理したのは、内務省-警察です。私宅監置された精神障害者は、十分な医療やケアを受けることはなく、多くは悲惨な状況に置かれていました。そして、その実態を調査した東京帝国大学 呉秀三教授は、「わが国十何万の精神病者はこの病を受けたるの不幸のほかに、この国に生まれたるの不幸を重ぬるものというべし」という言葉を残しました。

こうした悲惨な私宅監置制度の弊害を解消するため、公立の精神科病院の建設を目的として大正8年に精神病院法が制定されました。

残念ながら、第一次世界大戦後の経済事情の悪化で、公立病院の設置は進みませんでした。

戦後になって、ついに私宅監置制度は廃止されることとなり、都道府県に公立精神科病院設置義務を課した精神衛生法(1950年)がつくられました。その後、1954年(昭和29年)の患者調査で全国に精神障害者が約130万人、うち要入院の状態の人が35万人存在していることが明らかになりました。このときの精神科病床数は約3万床です。何万人もの人が私宅監置に近い状態に置かれている可能性があったのです。

入院設備の整備が急務とされましたが、公的病院の整備は「財政難」を理由として遅々として進みませんでした。国では、1958年に厚生省事務次官通知として精神科特例(精神科病棟においては一般科病棟に比較して、医師数は1/3、看護師数は2/3でいいとして、精神科病院に運営上のメリットを与えたもの)を出し、1960年に医療金融公庫が設立され、民間精神科病院の建設に低利融資が行われたことで、民間精神科病院ブームといわれる状況が起きました。
さらに1964年(昭和39年)のライシャワー事件で、「危険な精神障害者を野放しにするな」という世論が盛り上がり、旧厚生省は精神障害者の収容政策に大きく舵を切りました。

その後、宇都宮病院事件などの精神科病院不祥事の多発をうけ、精神保健法(1987年)と名前が変わり、1995年には精神保健福祉法とななりました。
法律の名前は変わりましたが、精神保健福祉法の立法趣旨は精神病者監護法の昔と変わらず、「社会にとって困った存在となりうる精神障害者に医療及び保護を与えるという名目で、社会から隔離・収容すること」です。

私たち精神科医は、精神保健福祉法に則って医療を提供するように訓練されます。そして、精神保健指定医の資格を持つと強制的な入院の決定や入院中の行動制限の指示が出せるようになります。精神保健指定医は、5年間以上の臨床経験(うち3年以上の精神科臨床経験)を持つ医師が所定の講習を受講し、8例の症例レポートを提出し合格すると厚生労働大臣から与えられる資格です。
8例の症例レポートの採点ポイントは、精神保健福祉法に定められた強制入院制度や行動制限の制度に関してきちんと理解しているかどうか、です。

精神保健福祉法
第一条  この法律は、精神障害者の医療及び保護を行い、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成十七年法律第百二十三号)と相まつてその社会復帰の促進及びその自立と社会経済活動への参加の促進のために必要な援助を行い、並びにその発生の予防その他国民の精神的健康の保持及び増進に努めることによつて、精神障害者の福祉の増進及び国民の精神保健の向上を図ることを目的とする。

この第一条の立法趣旨にあるように、精神障害者の自立や自己決定権の行使の支援がはじめに掲げられてはいません。まず、「精神障害者の医療および保護」が第一に掲げられています。また、「その社会復帰の促進及びその自立と社会経済活動への参加の促進のために必要な援助」と書かれているように、まず、精神障害者が社会から排除されていることを前提とした記載になっています。

そして、現実の医療現場では、精神保健福祉法は主に強制的な精神科入院と行動制限を正当化するための根拠として使われています。

おそろしいことに、精神保健福祉法に則って医療を提供していると、知らず知らずのうちに
・精神障害者は自分たちとは「違う」人々である
 →精神障害者が慢性期閉鎖病棟の「ひどい環境」で生活していてもおかしいとは思わない
・精神障害者は自己決定する能力に欠けているので、こちらから生活上の指示を出して従わせるのが、相手にとっても望ましい
などという意識を自然に持ってしまうのです。

実は精神科医療の専門家達が、精神障害者に対してきわめて強い偏見を持っているのです。
(この「精神科医療の専門家」にはもちろん私も含みます。)

私は、ピラミッド型の権力構造を持った組織では、人権侵害が起こりやすい傾向があるのではないかと考えています。
多くの精神科病棟は閉鎖病棟であり、密室です。その中は、医師を頂点としたピラミッド型の権力構造になっています。
精神科病棟は、そこに入院している人にとってだけではなく、働いているスタッフにもおそろしいところです。精神保健福祉法に定められた手続きを踏めば、合法的に入院患者の人権制限が可能になっています。医師だけではなく、働いているスタッフすべてに、入院している患者の人権を制限することの問題意識が希薄です。法に定められた手続きを踏めば、許されると考えています。数々の不祥事で、行動制限の要件は厳しくなりましたが、現場のスタッフに「行動制限を減らそう」という意識はなかなか生まれてきません。「必要があって行動制限をしている。それならば要件を満たして行動制限をできるようにしよう。」と考えてしまいます。

私は、精神保健福祉法のベースにある管理的な思想が問題であると考えています。以下、家族会の方からいただいたメ-ルを引用します。

精神保健福祉法は地獄の掟のような法律です。(中略)先生のおっしゃる通り、この法律では患者は幼児と同じ扱いです。入退院は家族と医師が決めてしまいます。医師は強大な権力を持ち、患者は自信を喪失し、自分を普通の人間とは思えなくなっていきます。権利を回復するための精神医療審査会は医師の味方です。精神科病院での処遇のあり方が、精神障害者の福祉施設のあり方にも影響を与えています。患者は退院して福祉施設に通っても、職員に対して同じような立場に置かれます。なんとか廃止したい法律です。

管理者も同様なので、ひどい場合にはスタンフォード監獄実験のような状態になってしまうことがあります。

スタンフォード監獄実験で明らかになったのは、権力を持つ人間が持たない人間と狭い空間で一緒にいると次第にびっくりするような虐待をしてしまう可能性があること、そして「普通の人」が組織の中で役割を与えられただけでそうなってしまうということでした。特定の個人に責任があるというよりも、システムに問題があるために虐待や人権侵害が生じてしまうのです。

スタンフォード監獄実験の責任者だった人のTED講演「フィリップ・ジンバルド:普通の人がどうやって怪物や英雄に変貌するか」を見ました。

フィリップ・ジンバルド:普通の人がどうやって怪物や英雄に変貌するか

なかなか素晴らしいのでご覧ください。

「悪」は「力の間違った行使」です。スタンフォード監獄実験でわかったことは、「環境によって、所属する組織のシステムによって、普通の人が極悪なことを平気でしてしまう」ということでした。イランのアルグレイブ刑務所での信じられないような虐待も「普通の兵士」がしたことでした。

権力を与える場合には、それが濫用されないように細心の注意を払わなければなりません。

精神科の閉鎖病棟においては、医療者に強大な権限が与えられています。
現状の法制度に基づくあの環境では、その濫用を防ぐことができません。
「普通の人、普通の医療者が虐待をしてしまう」のを防げないのです。
精神保健福祉法を抜本的に改正するか、20万床以上と思われる「過剰な精神科病床」を即刻閉鎖すべきだと考えています。

更新:2015/3/17

「新オレンジプラン」の問題点

平成27年1月27日、新しい認知症施策が発表されました。
認知症施策推進総合戦略~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~(新オレンジプラン)です。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000072246.html

この施策では、「当事者本位の支援モデルの構築」が基本的コンセプトとなっています。しかし、策定の最終段階で精神科病院の役割が強調された文言修正が入ったため、このコンセプトがぶちこわしになってしまいました。以下、ご説明しましょう。

<認知症とは>
認知症は
いったん正常に発達した知的機能が持続的に低下し、複数の認知障害があるために日常生活、社会生活に支障をきたすようになった状態
と定義されています。

認知症においては、もの忘れや判断力の低下という認知機能障害と一部の認知症の人に不安、焦燥、抑うつ状態、幻覚や妄想、興奮、徘徊、不潔行為などの行動・心理症状と呼ばれる精神症状が認められることが知られています。
認知症の人は圧倒的に高齢者が多く、認知機能障害に加えて、高齢化による身体機能低下が認められることがあり、さらに一部の認知症の人には精神症状が出現したりするなど様々な状態となり得ます。そして、認知症の人は「日常生活、社会生活に支障を来している」ので、まず必要なのは適切な生活支援です。さまざまな状態像の認知症の人に対して、当事者本位の適切な支援を提供することが大切なのです。

認知症の原因疾患は医学的疾患です。その意味で、医療の関与は欠かすことはできません。しかし、医学的な完全な予防法、医学的な完全な治療法が未だに開発されていない現状では、医療は「認知症の人の生活を支援する場面」での下支えの役割に徹すべきです。
(完全な治療法があれば、正確な診断とそれに基づく治療が中心になることでしょう。また、完全な予防法があれば、それを広めるのが大切になります。残念ながら、現状ではどちらも存在しないのです。)

日本では、こうした認知症の人への適切な支援が提供されているとは言いがたい現状にあります。そのために、認知機能が低下した認知症の人が環境に適応できずに混乱したりして、精神科医療が必要となるケースが多くあります。しかし、国民全体の認知症の人への正しい理解が深まり、適切な支援が提供されるようになれば、こうした「認知症の人への精神科医療の必要性」は減ってきます。いわば「認知症の人への精神科医療の必要性」が少なければ少ないほど、その社会は「認知症高齢者等に優しい社会」と言えるのです。
認知症の人を支援する場面において、精神科医療を前面に出さなくてはいけない社会は、「認知症高齢者等に優しい社会」とは到底言えません。この点で、今回の新オレンジプランが精神科病院の役割を強調しているのは、世界中に日本の恥をさらしたようなものです。

<新オレンジプランの問題点(各論)>

(本文9ページ)
「介護現場の能力を高め、介護で対応できる範囲を広げるためには、精神科や老年科等の専門家による、医療の専門性を活かした介護サービス事業者等への後方支援と司令塔機能が重要であり、その質の向上と効率化を図っていく。」
←医療の「後方支援機能」はきわめて重要です。しかし(特に精神科医療に)「司令塔機能」は持たせてはいけません。

(本文9ページ)
「具体的には、精神科病院等が介護事業所等と連携する、あるいは地域の ネットワークに加わり、介護職員や家族、認知症の専門科ではない一般診療科の医師等からの相談に専門的な助言を行ったり、通院や往診(通院困難な場合)等により適切な診断・治療を行ったりすることが必要である。」
←「精神科病院等」は「病床を持たない精神科医療機関」とすべきです。
病床をもった精神科病院にこうした相談機能を持たせることは、精神科病院に入院患者集客のための効率よい道具を提供してしまうことになるからです。これは、今回の新オレンジプランの中心的コンセプトである「認知症の当事者本位の支援モデル」の構築に反しています。

<最大の問題点~循環型の仕組みの構築>
今回の新オレンジプランの最大の問題点は「循環型の仕組みの構築」(本文9ページ)という考え方にあります。

認知症の人の支援の場面で、もの忘れや判断力の低下などの認知機能障害に基づく問題に対しては、ほとんどの場合、介護保険のサービスを有効に利用することで対応することが可能です。認知症の人の支援の場面で困ってしまうのは、行動・心理症状などの精神症状が出現してしまったときです。

新オレンジプランでは、行動・心理症状などの精神症状が出現したときに、「循環型の仕組みを構築」して対応するとしています。

(本文9ページ)
「当該医療機関・介護施設等での対応が固定化されないように、 退院・退所後もそのときの容態にもっともふさわしい場所で適切なサービスが提供される循環型の仕組みを構築する。その際、入院・外来による認知症 の専門医療も循環型の仕組みの一環であるとの認識の下、その機能分化を図りながら、医療・介護の役割分担と連携を進める。」
「そのときの容態に最もふさわしい場所で適切なサービスが提供される」

これは旧来のサービス提供モデルで利益を得てきたサービス提供業者の既得権を守るために考え出されたモデルです。
当事者の希望、ニーズに合わせて、サービスを工夫し、調整して提供するのではなくて、既存のサービスに当事者を当てはめていくモデルです。

「循環型の仕組み」では、当事者ではない周囲の人が、既存のサービスから「最もふさわしい場所での適切なサービス」を(恣意的に)選択し、そのサービスに当事者を当てはめます。そして、状態が変化したときには、「当事者を循環させる」モデルです。←たらい回しに近いと思います。
この「当事者を循環させる」ことによって、認知症の人には深刻なリロケーション・ダメージを生じます。きわめて問題の多いモデルなのです。

今回の新オレンジプランの中心的コンセプトである、「認知症の当事者本位の支援モデル」の構築のためには、こうした従来型のサービス提供モデルを否定し、認知症の人の思いと希望を最優先して、その実現のために必要なサービスを工夫、調整して組み合わせるという考え方が必要です。
必要なのは「(当事者を循環させる)循環型の仕組み」ではなくて、たとえ状態が変化しても当事者が暮らしたい場所で、必要なサービスを受けて暮らし続けることができる仕組みなのです。

「入院・外来による認知症 の専門医療も循環型の仕組みの一環であるとの認識」
←正しい認識ではありません。循環型の仕組み自体が、今回の新オレンジプランの中心的コンセプトである「当事者本位の支援モデル」に明確に反していることと、「入院・外来による認知症の専門医療」は、必要時に認知症の人の生活を下支えする役割にすぎないからです。

(本文10ページ)
「行動・心理症状(BPSD)に対応するに当たっては、病識を欠くことがあり、症状によっては本人の意思に反したり行動を制限したりする必要がある。精神科病院については、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号)の体系の中で、行動の制限が個人の尊厳を尊重し、人権に配慮して行われるよう、適正な手続き等が定められている。」
←精神保健福祉法に規定されている行動制限の手続きは、一人の精神保健指定医に権限が集中しており、本人の権利を守るための仕組みがありません。精神保健指定医の恣意的な判断による行動制限を防止することができない制度設計になっており、「個人の尊厳を尊重し、人権に配慮した適正手続き」とはいいがたいものです。改善のためには、本人の権利を守る仕組み、例えば、入院患者一人一人に権利擁護者をつけるなどの仕組みが必要です。
行動制限の規定に象徴的にみられるように、精神保健福祉法は入院している人の権利を擁護する法律にはなっていません。
精神保健福祉法を抜本的に改正するか、精神保健福祉法が適用される場所(精神科病床)を必要最小限まで減らす必要があります。

新オレンジプランには、「認知症の人を精神科に入院させることの問題点を全く考えていない記載」が数多く見られます。「認知症の人を精神科に入院させること」は世界の常識から言ってきわめて非常識なことです。「認知症の人を精神科に入院させる」ことを前提とした記載はすべて削除すべきであると思います。

(本文11ページ)
「身体合併症への適切な対応」
「身体合併症への適切な対応を行うためには、身体合併症等への対応を行う 急性期病院等における行動・心理症状(BPSD)への対応力を高めること、及び精神科病院における身体合併症への対応力を高めることがともに重要であり、身体合併症等に適切に対応できる医療の提供の場の在り方について検討を進める。」
←これは次のように書き換えるべきです。
「身体合併症への適切な対応を行うためには、身体合併症等への対応を行う急性期病院等における行動・心理症状(BPSD)への対応力を高めること、及び総合病院精神科の充実が重要であり、身体合併症等に適切に対応できる医療の提供の場の在り方について 検討を進める。」

身体疾患は身体疾患を治療する一般科病棟で治療すべきです。精神科病棟で治療すべきものではありません。

更新:2015/3/4

認知症の新しい施策について

平成27年1月27日、新しい認知症施策が発表されました。認知症施策推進総合戦略~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~(新オレンジプラン)です。

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000072246.html

この施策では、「当事者本位の支援モデルの構築」が基本的コンセプトとなっています。しかし、策定の最終段階で精神科病院の役割が強調された文言修正が入ったため、このコンセプトがぶちこわしになってしまいました。
認知症国家戦略/急ごしらえ、実効性に疑問@東奥日報2015年1月27日


<今回の新オレンジプラン策定の背景>

まず、今回の策定の経緯をおさらいします。
平成26年11月5日から7日にかけて認知症サミット日本後継イベントが開催されました。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000058871.html

世界10か国以上から、300人以上の参加があり、「新しいケアと予防のモデル」をテーマに活発な議論が行われました。11月6日の本会議開会式において、安倍内閣総理大臣が挨拶されました。
平成26年11月6日 認知症サミット日本後継イベント 総理の一日

「私は本日ここで、我が国の認知症施策を加速するための新たな戦略を策定するよう、厚生労働大臣に指示をいたします。我が国では、2012年に認知症施策推進5か年計画を策定し、医療・介護等の基盤整備を進めてきましたが、新たな戦略は、厚生労働省だけでなく、政府一丸となって生活全体を支えるよう取り組むものとします。」

これをうけて、「新オレンジプラン」が策定されることになりました。

「新オレンジプラン」という名称でもわかるとおり、平成24年9月に「今後の認知症施策の方向性について(H24.6.18)」に基づいて策定された「認知症施策推進5カ年計画(通称オレンジプラン)」の改訂版という位置づけでした。

このように、「新オレンジプラン」も「今後の認知症施策の方向性について(H24.6.18)」を受けた具体的施策だったのです。


<「今後の認知症施策の方向性について」とは>


平成24年6月18日に発表された「今後の認知症施策の方向性について」をご紹介します。
http://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/dementia/houkousei.html

まず、この報告書が策定された背景を考えてみます。

話は第2次世界大戦にさかのぼります。第2次世界大戦の反省から昭和20年に発足した国際連合では、昭和23年の世界人権宣言で「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利について平等である」とされるなど、一貫して人権保障が重要な課題とされてきました。世界の人口の約1割をしめると言われている障害者の人権に関する取り組みは、昭和40年代半ば頃から本格化しました。昭和50年に「障害者の権利宣言」が採択され、昭和56年には「障害者の完全参加と平等」を掲げて、「国際障害者年」が設定され、昭和58年から平成4年まで「国連障害者の十年」の取り組みがなされました。そして、平成10年代に入ると「障害者を含めたすべての人を包摂することが、すべての人にとって豊かな社会を作り出す方法である」という意味を込めた「万人のための社会(society for all)」という言葉が使われるようになりました。平成13年から検討が始まった障害者権利条約は、平成18年に国連総会で採択され、平成20年5月に発効したのです。

日本は平成19年に署名し、内閣府 障がい者制度改革推進会議などで関連法制度の整備を積極的に行い、平成26年2月に批准しました。

特に問題が多い精神保健医療分野に関しては、厚労省社会援護局 障害保健福祉部 精神・障害保健課が担当した審議会「新たな地域精神保健医療体制を構築するための検討チーム」で検討が行われました。そして、この検討チームの第2Rで「認知症と精神科医療」に関して議論が行われたのです。

そもそもなぜ、「認知症と精神科医療」に関する議論が必要になるのでしょうか。


<認知症とは>


認知症は医学的には、

いったん正常に発達した知的機能が持続的に低下し、複数の認知障害があるために日常生活、社会生活に支障をきたすようになった状態

と定義されています。認知症の人は日常生活、社会生活で支障を抱えているので、その生活を支援する必要があります。

認知症になると「認知機能障害」と「行動・心理症状(BPSD、周辺症状)」の2種類の症状が出てくると言われています。このうち、認知機能障害とは、脳の神経細胞が死滅・脱落することによって直接的に生じてくる症状で、記憶障害、見当識障害、判断力の低下などをいいます。認知症であれば、必ず脳の神経細胞の脱落が認められるので、認知症の人では認知機能障害は必発です。また、

 認知症の悪化=脳の神経細胞の脱落の進行

なので、認知症の進行に伴い、認知機能障害は増悪していきます。

それに対して、行動・心理症状とは「認知機能障害を持っている認知症の方に、もともとの性格、周囲の環境、人間関係などの様々な要因が絡み合って生じてくる症状」のことをいいます。すべての認知症の人に認められるわけではなく、一部の認知症の人に認められる症状です。具体的には、不安、抑うつ、興奮、徘徊、不眠、被害念慮、妄想などのことです。例えば、認知症の初期段階では、自分の認知機能障害に気づき、不安になったり、将来のことを考えて、抑うつ的になったりします。さらに認知機能障害が進行すると、忘れること自体を忘れてしまい、記憶障害に関する病識が失われるので、自分がしまい場所を忘れてなくしたものを「誰かが盗った」などと訴えたりすることがあります(物盗られ妄想⊆被害関係妄想)。こういった被害妄想のために興奮したりすることもあります。また、場所がわからなくなると徘徊が認められたりします。

認知症の行動・心理症状とは、もの忘れや判断力の低下で認知機能が低下した認知症の人が周囲の環境に適応ができずに混乱してしまった結果であったり、認知症の人の言葉にならないメッセージであったりするのです。認知症の人への支援が十分にあれば予防することも可能であり、改善も可能な精神症状です。



<認知症の人の精神科入院ニーズ>

現在の日本では、国民全体の認知症に関する理解が十分ではなく、認知症の人への支援が十分に提供されていないため、認知症の人に行動・心理症状などの精神症状が出てきてしまうことがあります。現状では、かなりひどい状態になる方もいるため、精神科病院への入院のニーズは高い状態が続いています。

        病院に入院中の  精神科病床に入院中
        認知症の人の数   の認知症の人の数

• 平成11年    54000人      36700人  

• 平成14年    71000人      44200人  

• 平成17年    81000人      52100人  

• 平成20年    75000人      51500人  

• 平成23年    80000人      53400人  

「新たな地域精神保健医療体制の構築に向けた検討チーム第2R」では、この増え続ける「認知症の人の精神科入院の問題」に関して活発な議論が行われました。
とりまとめの段階で、日本精神科病院協会出身構成員と事務局が進めようとした「入院期間を短くするだけの目標値」設定に一部委員が強く反対したのです。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001xah3.html

日精協出身構成員と事務局が設定しようとした「退院に着目した目標値」(報告書15ページ以降)は、

 平成32年度までに、精神科病院に入院した認知症患者(認知症治療病棟に入院した患者)のうち、50% が退院できるまでの期間を2ヶ月以内とする

というものでした。しかし、これはほとんど意味の無い目標設定です。
たとえば、ご家族のレスパイト目的での短期間の精神科病棟入院を入れれば、この目標値は簡単にクリアできます。現状でも、本来レスパイトを受けるべき介護施設のショートステイは数週間前に予約しないといけない状況で、そのニーズに十分に対応できておらず、ご家族のレスパイト目的での認知症の人の精神科入院は多いのです。

これに対して、一部委員が主張した「入院に着目した目標値」(報告書18ページ以降)は

 認知症の人の精神科入院を減らすためには、入院自体を減らす目標値を設定する必要がある

というものでした。至極当然の指摘であると思います。

この2つの立場が激しく対立し、とりまとめの段階で審議会の意見の一致に至りませんでした。

この問題をさらに深く検討するために、藤田一枝厚労省政務次官(当時)を主査とした「認知症施策検討プロジェクトチーム」が設置されました
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001wddm.html

外部の圧力をさけるため、チームは厚労省内のメンバーだけで組織され、H24.6.18に報告書「今後の認知症施策の方向性について」を発表しました。
http://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/dementia/houkousei.html


「今後の認知症施策の方向性について」報告書の内容

この報告書の中では、これまでの日本の認知症施策の再検討をしています。

「かつて、私たちは認知症を何も分からなくなる病気と考え、徘徊や大声を出すなどの症状だけに目を向け、認知症の人の訴えを理解しようとするどころか、多くの場合、認知症の人を疎んじたり、拘束するなど、不当な扱いをしてきた。今後の認知症施策を進めるに当たっては、常に、これまで認知症の人々が置かれてきた歴史を振り返り、認知症を正しく理解し、よりよいケアと医療が提供できるように努めなければならない。」

そして、今後の目標を次のように設定しました。

「このプロジェクトは、「認知症の人は、精神科病院や施設を利用せざるを得ない」という考え方を改め、「認知症になっても本人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で暮らし続けることができる社会」の実現を目指している。」

この「今後の認知症施策の方向性について」をうけて、同年9月に認知症施策推進5カ年計画(旧オレンジプラン)が策定され、平成25年から実施されていたのです。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002j8dh.html

「新オレンジプラン」の具体的問題点に関しては、次回に!

更新:2015/3/3

認知症初期集中支援チームについて

平成24年10月頃に書いた文章ですが、読みなおしたらわかりやすい文章だったので、ご紹介します。
「身近型認知症疾患医療センター」は現在、「認知症医療支援診療所」と名称が変わりました。

初期集中支援チームの有効性と認知症の人の精神科入院

更新:2015/2/18

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